早トチリで買った新書で思いがけず科学史のおさらい2018年03月13日

『〈どんでん返し〉の科学史:蘇る錬金術、天動説、自然発生説』(小山慶太/中公新書)
 書店の店頭に次の新刊新書が平積みされていた。

 『〈どんでん返し〉の科学史:蘇る錬金術、天動説、自然発生説』(小山慶太/中公新書)

 まず、タイトルに目を奪われた。オビの「まさか、錬金術が現代によみがえるとは!」にもびっくりした。手に取って目次をパラパラとめくっただけで、すぐに購入してしまった。現代科学の最前線の驚異を報告するビックリ本だと思ったのだ。

 帰宅して「まえがき」読み、早トチリに気づいた。「蘇る錬金術」とは核物理学による元素変換のことであり、「蘇る天動説」とは宇宙の相対座標のことであり、「蘇る自然発生説」とは原始生命は有機高分子から発生しただろうという話である。暗黒エネルギーは21世紀のエーテルに相当するという記述もある。要は科学史の啓蒙書である。

 「どんでん返し」という視点から科学史を振り返っているのが本書のミソであり、最先端のビックリ大発見の本ではなかった。目次を冷静に見れば内容はわかるのだが、本書を店頭で手にした私は妙なかん違いをしていた。トンデモ科学やエセ科学は私が最も警戒するものなのに、いったい何を期待して本書を購入したのだろうか。精神状態がおかしかったのかもしれない。

 おのれの早トチリを呪いつつも本書を読み進めた。科学史関連の本を読むには久しぶりなので、学生時代の遠い記憶がよみがえってくるような新鮮で懐かしい気分になった。

 本書は「蘇る錬金術」「転変をつづける宇宙像」「復活した不可秤物質」「回帰する生命の自然発生説」の4章から成り、それぞれ以下のような科学史のトピックを解説している。

 ・元素論、錬金術、原子構造の発見、太陽の核融合
 ・コペルニクス、ケプラー、ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン
 ・カロリック(熱素)、光子、量子力学、フォノン、重力波、ヒッグス場
 ・微生物の発見、進化論、DNA、生命と物質

 まさにコンパクトな科学史の本である。科学史は私の興味分野の一つだ。私にとっての新たな知見もいろいろあり、面白く読了できた。想定外に科学史の本を読んでしまい、もっときちんと科学史を勉強しなければなあ、という気分になった。と言っても、残された人生の時間は限られているからなあ、とも思った。