シチリアの歴史を手軽に勉強したいと思ったが…2018年03月07日

『シチリアの歴史』(ジャン・ユレ/幸田礼雅訳/文庫クセジュ/白水社)、『中世シチリア王国』(高山博/講談社現代新書)
◎「文庫クセジュ」はクセモノ

 ふとしたきっかけでシチリア旅行をすることになった。出発は 5月(2カ月先)、主にギリシア・ローマ時代の古跡をめぐる1週間ほどの旅行だ。シチリアは九州より小さく四国よりは大きい島だ。いまはイタリアの一部だが、かつては王国だったこともある。

 ギリシア史やローマ史の本にシチリアという地名は散見する。先日読んだ『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(塩野七生)にもでてきたが、私はこの島の歴史は断片的にしか知らない。

 旅行の前にシチリアの歴史を手っ取り早く勉強しておこうと思い、次の本を読んだ。

 『シチリアの歴史』(ジャン・ユレ/幸田礼雅訳/文庫クセジュ/白水社)

 薄い(175頁)の新書版で手ごろな入門書と思って読み始めた。冒頭の十数頁までは普通に読み進んだが、次第にわけがわからなくなってきた。知らない地名や人名が頻出するのだ。巻頭にシチリアの地図は掲載されているが、そこにない地名もどんどん出てくる。シチリア以外の地名もたくさん出てくる。都市名か地域名か国名か判然としないことも多い。

 登場人物も多い。約170頁で旧石器時代からギリシア・ローマの時代を経てムッソリーニの時代、マフィアが活動する戦後までを概説しているのだから、しかたない。

 本書はフランスで刊行されている百科全書的な叢書「文庫クセジュ」の翻訳である。その点に感じた一抹の不安は的中した。ヨーロッパの地理や歴史の基本素養がある読者を前提にした、フランス教養人向けの歴史エッセイ風の通史なのだ。私のような断片的知識もおぼつかない日本人がついていくのは難しい。

 それでも、何とか読み通した。何やらぼんやりとした印象が残り、周辺の基本知識を習得、整理したうえで本書を再読すれば、そのウイットを楽しみながら面白く読めるだろうと感じた。

◎シチリア王国の実態にびっくり

 消化不良の読書だったので、続けて次の新書も入手して読んだ。

 『中世シチリア王国』(高山博/講談社現代新書)

 これは日本人研究者が書いた啓蒙書なので読みやすい。通史ではなく中世を扱った本だが、最初の章で古代から中世に至るまでを概説しているので、13世紀頃までのシチリア史の入門書にもなっている。

 そして、本書のメインテーマ「シチリア王国」の説明が抜群に面白い。ひとことで言えば、北フランスのノルマンジーからやって来たノルマン人が作ったこの王国は、ローマ・カソリック文化、ビザンチン(ギリシア)文化、イスラム文化の三つがモザイクのように共存した不思議な王国であり、後のヨーロッパ世界の文化に多大な影響を及ぼしているのだ。私にとっては目から鱗のびっくり読書だった。

 中世に生きた近代人と言われるフリードリッヒ二世(神聖ローマ帝国皇帝&シチリア王)は本書のエピローグに少しだけ登場する。あの皇帝の前身にこの王国があったのかと納得した。

◎周辺世界抜きには把握できないシチリア史

 『シチリアの歴史』と『中世シチリア王国』を読んで、この島の歴史にはヨーロッパの歴史の多様な要素が詰まっていると認識した。九州より狭い島なのに決して一枚岩ではなく、島内の都市は多様である。それは周辺世界の反映でもある。

 地理的条件から地中海周辺のいろろな国や民族の影響下にあるので、この島の歴史は周辺の事情抜きに語ることはできない。その周辺とはヨーロッパ、小アジア、北アフリカである。

 ということは、シチリアの歴史を把握するには西欧史全体を把握しなけらばならない、ということになってしまう。これはタイヘンなことだ。あらためて西欧の国々の歴史はゴチャゴチャと絡み合っていることを認識した。