2冊を並行読書した気になる『オリエント世界の発展(世界の歴史4)』 ― 2026年08月25日
中央公論社が1996年から1999年にかけて刊行した『世界の歴史』(全30巻)を古書で安価に購入したのは約10年前、気ままに関心が向いた巻を読んでいる。全巻読破は不透明だが、次の第4巻を読んだ。実は第1~3巻と第5~11巻は既読で、第4巻の穴あきが気がかりだったのだ。
『オリエント世界の発展(世界の歴史4)』(小川英雄・山本由美子/中央公論社/1997.7)
オリエント史としては『人類の起源と古代オリエント(世界の歴史1) 』が新バビロニア帝国までを描いていて、本巻はアケメネス朝からサーサーン朝までと地中海アジア(アナトリアからパレスチナあたり)の歴史を描いている。穴埋め気分で読み始めたが、意外と面白く読めた。
年初に『ペルシア帝国』(足利惇氏)を読んだばかりだし、この数年で『古代メソポタミア全史』(小林登志子)、『古代オリエント全史』(小林登志子)、『ペルシア帝国』(青木健)なども読んでいたので、比較的スムーズに読めたのだろう。と言っても、読んだ本の内容の大半は蒸発している。時々、遠い微かな記憶がよみがえる気分になった。ヘェーと思う新たな知見も多かった。それも以前に読んだ内容かもしれない。失念していれば、私にとっては新たな知見だ。
本書の著者・小川英雄氏(1935-2016)の『ローマ帝国の神々』や訳書『ミトラの密儀』(キュモン)、山本由美子氏(1946-)の『マニ教とゾロアスター教』は以前に読んだことがある。本書は二人の分担執筆で、章ごとに執筆者が交代する構成である。
本書を読了して、二冊の別々の本を並行して読んだ気分になった。章ごとの執筆者を意識しながら読んだせいかもしれない。章ごとに関連してるのだが、二人のトーンは少し異なる。
小川氏が担当しているのはアナトリアとシリア・パレスティナ地域で、それを「地中海アジア」と呼んでいる。ユダヤ教やキリスト教が発生した場所であり、その歴史にウエイトを置いている。「一神教発生の地、地中海アジアの歴史」とでも題するような内容だ。
山本氏が担当しているのはイラン地域である。エラム、メディア、アケメネス朝、パルティア朝、サーサーン朝やゾロアスター教について解説している。「ペルシア帝国の歴史」と題する内容だ。
山本氏が担当したペルシアに関しては、ペルシア人が書き残した史料は少ない。碑文やヘロドトスの『歴史』など外部の史料が手掛かりになる。『歴史』などギリシア人視点の史料を批判的に相対化して解説しているのが興味深い。パルティアは後続のサーサーン朝によって意図的に評価が貶められたとの指摘も面白い。サーサーン朝がパルティアの文化や宗教を承継していることを実証的に解説している。
小川氏はイスラエルで発掘調査にも携わった考古学者である。本書でも発掘調査に関する記述が多い。ユダヤ人の歴史に関しては旧約聖書に基づく記述が多いのが気になった。多少は旧約聖書を史料批判的に扱ってもいいのではと思った。
エジプトが一神教を採用したアマルナ時代がユダヤ教につながっているという指摘には少し驚いた。両者に関連があるとは知らなかった。
本書の末尾で、小川氏はローマのミトラス教に言及し、次のように述べている。
「ポントス王ミトリダテス6世の軍隊の敗残兵の中には地中海の諸民族の出身者がいたが、その中にはミトラスの信仰に詳しい者がいて、海賊に加わった後にミトラス教を興したと推測されている。」
これは、ミトラス教がローマの新興宗教だという指摘に思える。昨年、『異教のローマ:ミトラス教とその時代』(井上文則)で驚いた点である。30年前からわかっていたようだ。キュモンの翻訳者である小川氏は、井上氏が紹介した「キュモンの定説の崩壊」を認識していたのだろうか。門外漢の私には、よくわからない。
『オリエント世界の発展(世界の歴史4)』(小川英雄・山本由美子/中央公論社/1997.7)
オリエント史としては『人類の起源と古代オリエント(世界の歴史1) 』が新バビロニア帝国までを描いていて、本巻はアケメネス朝からサーサーン朝までと地中海アジア(アナトリアからパレスチナあたり)の歴史を描いている。穴埋め気分で読み始めたが、意外と面白く読めた。
年初に『ペルシア帝国』(足利惇氏)を読んだばかりだし、この数年で『古代メソポタミア全史』(小林登志子)、『古代オリエント全史』(小林登志子)、『ペルシア帝国』(青木健)なども読んでいたので、比較的スムーズに読めたのだろう。と言っても、読んだ本の内容の大半は蒸発している。時々、遠い微かな記憶がよみがえる気分になった。ヘェーと思う新たな知見も多かった。それも以前に読んだ内容かもしれない。失念していれば、私にとっては新たな知見だ。
本書の著者・小川英雄氏(1935-2016)の『ローマ帝国の神々』や訳書『ミトラの密儀』(キュモン)、山本由美子氏(1946-)の『マニ教とゾロアスター教』は以前に読んだことがある。本書は二人の分担執筆で、章ごとに執筆者が交代する構成である。
本書を読了して、二冊の別々の本を並行して読んだ気分になった。章ごとの執筆者を意識しながら読んだせいかもしれない。章ごとに関連してるのだが、二人のトーンは少し異なる。
小川氏が担当しているのはアナトリアとシリア・パレスティナ地域で、それを「地中海アジア」と呼んでいる。ユダヤ教やキリスト教が発生した場所であり、その歴史にウエイトを置いている。「一神教発生の地、地中海アジアの歴史」とでも題するような内容だ。
山本氏が担当しているのはイラン地域である。エラム、メディア、アケメネス朝、パルティア朝、サーサーン朝やゾロアスター教について解説している。「ペルシア帝国の歴史」と題する内容だ。
山本氏が担当したペルシアに関しては、ペルシア人が書き残した史料は少ない。碑文やヘロドトスの『歴史』など外部の史料が手掛かりになる。『歴史』などギリシア人視点の史料を批判的に相対化して解説しているのが興味深い。パルティアは後続のサーサーン朝によって意図的に評価が貶められたとの指摘も面白い。サーサーン朝がパルティアの文化や宗教を承継していることを実証的に解説している。
小川氏はイスラエルで発掘調査にも携わった考古学者である。本書でも発掘調査に関する記述が多い。ユダヤ人の歴史に関しては旧約聖書に基づく記述が多いのが気になった。多少は旧約聖書を史料批判的に扱ってもいいのではと思った。
エジプトが一神教を採用したアマルナ時代がユダヤ教につながっているという指摘には少し驚いた。両者に関連があるとは知らなかった。
本書の末尾で、小川氏はローマのミトラス教に言及し、次のように述べている。
「ポントス王ミトリダテス6世の軍隊の敗残兵の中には地中海の諸民族の出身者がいたが、その中にはミトラスの信仰に詳しい者がいて、海賊に加わった後にミトラス教を興したと推測されている。」
これは、ミトラス教がローマの新興宗教だという指摘に思える。昨年、『異教のローマ:ミトラス教とその時代』(井上文則)で驚いた点である。30年前からわかっていたようだ。キュモンの翻訳者である小川氏は、井上氏が紹介した「キュモンの定説の崩壊」を認識していたのだろうか。門外漢の私には、よくわからない。
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