最古のメソポタミア史にすでに人類の経験が凝縮2025年03月04日

『古代メソポタミア全史:シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで』(小林登志子/中公新書)
 先月、『人類の起源と古代オリエント』(世界の歴史1) を読んで、頭が多少は古代史モードになっているので、未読棚の次の新書を読んだ。

 『古代メソポタミア全史:シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで』(小林登志子/中公新書)

 一昨年、同じ著者の『古代オリエント全史』を読んだ直後に本書を購入した。メソポタミアはオリエントの一部なので、オリエント史の後にメソポタミア史を読むのはズームアップ読書になる。『古代メソポタミア全史』の刊行は2020年10月、『古代オリエント全史』の刊行は2022年11月だから、刊行順に読むならズームアウト読書になる。どちらがいいか、よくわからない。

 本書の主要部分の目次は以下の通りである。

 第1章 シュメル人とアッカド人の時代――前3500年~前2004年
 第2章 シャムシ・アダト1世とハンムラビ王の時代――前2000年紀前半
 第3章 バビロニア対アッシリアの覇権争い――前2000年紀後半
 第4章 世界帝国の興亡――前1000年~前539年

 古代メソポタミア史とは、前3500年頃のシュメル人の都市国家に始まり前539年の新バビロニア王国滅亡で終わる約3000年の歴史である。第1章は約1500年、第2~4章は約500年ずつを記述している。第4章の「世界帝国」は新アッシリアを指す。序章と終章では、この3000年史の以前と以後を概説している。

 チグリス河とユーフラテス河にはさまれたメソポタミアは古代文明発祥の地である。その周辺にはエジプト、シリア、アナトリア、イランなどの文化や文明がある。本書の記述は、当然ながらそれら周辺諸国との関わりにも及んでいる。

 前3500年頃からの3000年は、現代までの歴史の半分以上の時間だ。とても長い。当然ながら様々な事象に満ちている。遠い昔のできごとは史料が少ないのでボヤけているように思えるが、粘土板に刻まれた楔形文字の解読で意外に細かいことまでわかっているようだ。著者はこの3000年について「ただ長ければ良いということではありませんが、短い歴史にくらべて、ありとあらゆるできごとがつまっていて、おもしろいです」と述べている。

 丸山真男は「ローマ史には人類の経験が凝縮されている」と語ったそうだ。本書を読むと、古代ローマ以前の古代メソポタミア史に、すでに人類の経験が凝縮されていると思える。門外漢には馴染みのない固有名詞(人名、地名、集団名)が頻出するので、歴史像を思い描きにくいのが難点である。

 メソポタミア史の把握には時間軸だけなく空間軸が重要だ。年代ごとの地理を知らねばならない。メソポタミア3000年の歴史では、メソポタミアという限られた地域の中で多様な都市が興亡し、多様な人々が移動する。この地理がかなりややこしい。地図と年表による三次元で世界の動きを捉えなければ歴史像を描けない。

 遠い昔の歴史なので、史料が整っているわけでなく、判明している知見にはデコボコがある。空白の部分や不明の点は周辺史料から推測することになる。

 三次元でダイナミックに歴史像を描くことや、史料の読み解きといった点で、メソポタミア史は歴史を学ぶ教材としても面白いと思う。メソポタミア3000年の歴史をきちんと把握できれば、その後の現代までの2500年の歴史がちゃちな繰り返しに見えてくるかもしれない。

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