『君が手にするはずだった黄金について』は小説家に関する連作集2024年03月13日

『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲/新潮社)
 『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲/新潮社)

 5カ月前に出た小川哲氏の新作を面白く読んだ。まとまりのいい連作短篇集で、6篇でひとつの世界を構築している。私小説を装って、小説家とは何者かを追究した「小説家小説」である。

 冒頭の短篇のタイトルは『プロローグ』、末尾の短篇のタイトルが『受賞エッセイ』、長編小説の「プロローグ」と「あとがき」とかん違いしそうになる構成だ。内容も、『プロローグ』が小説を書く生活を選んだ決意表明、『受賞エッセイ』が小説を書き続けることの持続表明に思える。

 私は数年前に小川氏の『ゲームの王国』を読んで虚実混在世界構築の筆力に感心し、その後、『ユートロニカのこちら側』『地図と拳』『君のクイズ』なども面白く読んだ。これらの作品を生み出してきた小説家の生活と内面を垣間見た気分になる連作短篇集である。

 冒頭の短篇には「『ムーン・パレス』を読んでいる人に幻滅するような男なら、そもそも付き合わない方がいい」「谷崎の初版本を渡されて喜ばない人とは付き合う価値がないよ」などの気障でシャレた台詞が出てくる。私は『ムーン・パレス』を読んでいないし、もちろん谷崎の初版本も持っていない。でも、こんな台詞がある小説を面白いと感じてしまう。

 フィクションを紡ぐ現場の心境には、現代社会に生きる人々の心象が投影されているという当然のことをあらためて感じた。

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