読み進めるに従って呪いが浮き上がる『ダーウィンの呪い』2024年01月05日

『ダーウィンの呪い』(千葉聡/講談社現代新書)
 『ダーウィンの呪い』(千葉聡/講談社現代新書)

 この新書の新聞広告を見て、すぐに食指が動いた。吉川浩満氏が「見境なく人に薦めたくなりました」と推薦していたからだ。吉川氏の『理不尽な進化』を面白く読んだのは5年前、その2年後に出た増補新版も読んだ。進化論の玄妙を語る名著だった。

 2年前には、かねてからの宿題だった『種の起源』『ビーグル号航海記』を何とか読むことができた。元々、進化論は私の関心分野だった。

 本書の著者は進化生物学と生態学が専門の研究者である。タイトルから、ダーウィンの進化論が社会にもたらした影響を描いた進化論の歴史物語だろうと想像した。その予感通りの書だったが、私の想定した内容をはるかに超えた、広くて深くて恐ろしい内容だった。読み進めるに従って、タイトルの意味が明らかになっていく。

 つづめて言えば「ダーウィンの呪い」とは優生学である。進化論の俗流理解とも言える優生学が社会に悪影響を与え、ナチスの精神障碍者殺害政策や人種政策にもつながった、ということは私も理解しているつもりだった。だが、本書を読んで、私の理解は皮相的だったと知った。プラトンにまで遡る優生学の考えは根深く、根絶は難しそうだ。

 かつて優生学運動を推進した人々はどんな意識をもっていたか、著者は次のように述べている。この一節はかなりコワイ。

 「こうした意識を持つ人々は、現代なら言論の自由を重視し、環境問題や差別の撤廃への関心が強い層に該当するだろう。恐らくダーウィンという言葉が気になるような人々だ。つまり、本書の著者や、恐らく本書の読者層のかなりの部分にも該当する。」

 進化論のベースは自然選択(natural selection 私が読んだ『種の起源』は「自然淘汰」と訳していた)であり、それがもたらす「進化」は「進歩」ではない。獲得形質は遺伝せず、努力が進化に結び付くわけではない――進化論理解の基本だと思う。しかし、本書が語るダーウィン以降の研究者たちの考えは多様で複雑に変遷する。興味深い科学史であり、社会学史でもある。大いに勉強になった。

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