『理不尽な進化』を増補新版で再読――やはり後半は難解だが面白い2021年06月21日

『理不尽な進化:遺伝子と運のあいだ(増補新版)』(吉川博満/ちくま文庫)
 2年前に読んで蒙を啓かれた 『理不尽な進化』(朝日出版社) がちくま文庫の新刊で出た。「増補新版」となっている。面白いが難解な本だったので、いずれ再読せねばと思っていた。これを機に増補新版を購入して読み返すことにした。

 『理不尽な進化:遺伝子と運のあいだ(増補新版)』(吉川博満/ちくま文庫)

 地球で発生した生物の99.9%は絶滅したという話や適者生存はトートロジーという話は面白かったが、後半は哲学的で難解だった――そんな印象が残っているので、やや身構えて本書再読に取り組んだ。

 第1章と第2章は、進化の理不尽性や素人の進化論理解に関する話で、分かりやすくて面白い。第3章は研究者同士の適応主義を巡る論争の紹介と評価である。ドーキンスら主流派に対してグールドが適応主義偏重を批判し(実はもっと複雑な内容だが…)、いまでは主流派の勝ちと見なされている。著者も明快にグールドの負けと判定している。ここまでは理解しやすい。

 で、「終章 理不尽にたいする態度」になる。この章が本書のメインで、論争に負けた筈のグールドが不思議な形でよみがえり、議論の時空が拡大し、自然・人間・歴史を巡る哲学的な考察の展開になる。覚悟はしていたが、やはり難解である。理解(この「理解」という用語も要注意…)したとは言い難く、雰囲気を味わっただけだ。だが、十分に刺激的で多少は頭のマッサージになった気がする。

 文庫版で増補された「附録 パンとゲシュタポ」で、著者は次のように述べている。

 「アートとサイエンス、どちらも込みで私たちの世界であり人生である。だが、その棲み分けはつねに完璧というわけではない。両者の識別不能ゾーンというべきものが存在し、しばしば私たちを混乱させる。/ 本書が照準を合わせたのは、この識別不能ゾーンである。」

 そんなゾーンがわかりやすい筈がない。

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