『フェイクスピア』→『日航ジャンボ機墜落』→36年前へ2021年06月18日

『新潮』(2021.7)、『日航ジャンボ機墜落:朝日新聞の24時』(朝日新聞社会部編/朝日文庫)
 1985年8月12日、524人を乗せた日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落した。その年の年末、この大事故のドキュメントが朝日新聞社から刊行され、1990年に文庫化された。その文庫本を読んだ。

 『日航ジャンボ機墜落:朝日新聞の24時』(朝日新聞社会部編/朝日文庫)

 墜落事故から36年経って本書を読んだのは、今月号(2021.7)の『新潮』に載った野田秀樹の長編戯曲『フェイクスピア』を読んだからである。戯曲を読んだのは先月この芝居を観たからである。

 恐山のイタコとシェイクスピアを絡めたこの芝居の終盤には日航機事故を思わせるシーンがあり、それが気になって戯曲を読んだ。戯曲末尾の参考文献にはシェイクスピアの諸作品と並んで朝日新聞社会部編『日航ジャンボ機墜落』が載っていた。で、この本を入手して読んだ。

 本書は大事故発生時の新聞社の動きを多層的に記録し、そこから大事故を迫真的に描出している。サブタイトルに「朝日新聞の24時」とあるのは、事故の2カ月後、新聞見開き2頁で掲載した「日航機墜落――朝日新聞の24時」という記事が本書のベースだからだ。記事は事故発生から24時間の記録だったらしいが、本書はその後の様子や乗客全員の名簿(旅行目的などを記載)、ボイスレコーダの記録などを載せている。

 本書を読みながら、私は36年前に36歳だったから、わが人生の中間点があの年だと気づいた。どうでもいい感慨だ。あの日、事故発生が午後7時前で第1報が午後7時半頃、ここから「非日常」が始まり、翌日の朝刊紙面作成が最初の山場になる。本書によれば途中の版から『天声人語』も事故関連に書き変えたそうだ。

 その『天声人語』を読み返すと(実は、私は当該新聞を保存している)、サンテグジュペリの『夜間飛行』に言及している。ありがちな発想かもしれないが、『フェイクスピア』でも『夜間飛行』や『星の王子さま』が大きな役割を担っている。

 戯曲と本書を併せ読むと、この芝居のあちこちで日航機墜落を示唆しているのが確認できる。芝居末尾の迫力ある場面はボイスレコーダの記録の再現である。『日航ジャンボ機墜落』によれば、ボイスレコーダの録音終了時刻(墜落時刻?)は56分28秒だ。

 『フェイクスピア』冒頭シーンで、イタコ見習い(白石加代子)が二人の客とダブルブッキングする。その予約は午後6時56分28秒という妙に几帳面な時刻である。秒で予約するギャグに笑った私は、その時刻の意味にまったく気づかずに笑っていた。