ブッダは合理的でプラグマティックな考えの経験論者2023年11月23日

『ブッダが説いた幸せな生き方』(今枝由郎/岩波新書/2021.5)
 『ブッダが説いた幸せな生き方』(今枝由郎/岩波新書/2021.5)

 さる人からいい本だと紹介されて購入したのが2年前、『ゆかいな仏教』を読んで未読の本書を思い出した。『ゆかいな~』がゴチャゴチャと難解なのに比べて本書はわかりやすい。わかりやす過ぎるぐらいだ。

 著者は1947年生まれのチベット歴史文献研究者、フランスの研究機関に長く在籍し、ブータンの国立図書館顧問として現地に10年在み、現在は日本在住らしい。

 著者は、日本の仏教をブッダの教えからかけはなれた「奇形」とし、もしブッダが日本仏教の現状を知ったら、まちがいなく「私は『仏教徒』ではない」と言うだろうと述べている。

 紀元前5世紀頃、シッダールタが「覚り」を得てブッダとなり、仏教を開いた。著者は「覚り」という言葉を使わず、一貫して「目覚めた人」ブッダと表現している。

 ブッダは人々に乞われて「目覚めた人」になる方策を語る。その教えは数世紀にわたって口承で伝えられ、初めて文字になったのはブッダから約500年後の紀元前後のパーリ語の記録である。その後、サンスクリット語で記されるようになる。経典の原文はサンスクリット語と思っていたが、それ以前にパーリ語があったとは知らなかった。

 著者は、ブッダ自身のことばに可能な限り近づくため、主にパーリ語のテキストに基づいて本書を著している。著者が長年研究してきたチベット・ブータン仏教も著者の見解に反映されていて「多分に個人的な「仏教」理解です」とことわっている。

 本書が紹介するブッダの教えは難解な哲学ではなく、自己啓発セミナーの指南のようだ。わかりやすいが、容易に実践できるわけではない。ブッダに関する次の指摘が意外だった。

 「ブッダは経験論者で、生涯を通じてすべて自分で経験したことだけを話す人であり、思弁的、形而上学的なことがらはいっさい問題にしませんでした。」

 ブッダは徹底した合理主義者でプラグマティックな考え方をしたとも述べている。その教えを簡単にまとめることはできないが、ある種の精神修養を説いている感じだ。

 仏教において「目覚めた人」になる(さとりをひらく)のは至難だとのイメージがある。だが、ブッダが生きた時代には、多くの弟子たちが「目覚めた人」になったそうだ。後世になって、「目覚めた人」になるのはとっても困難と見なされるようになったらしい。ありそうな話だ。

 著者は、ニーチェやアインシュタインの次のような言葉も紹介している。

 「仏教は、歴史が我々に提示してくれる、唯一の真に実証科学的宗教である(ニーチェ)」

 「仏教は、近代科学と両立可能な唯一の宗教である(アインシュタイン)」

 私は宗教にさほどの関心はないが、仏教に期待してもいいのかな、と思わせる本である。

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