『ガラスの動物園』と後日譚『消えなさいローラ』の連続上演を堪能2023年11月10日

 紀伊國屋ホールで『ガラスの動物園』と『消えなさいローラ』の芝居二本立て(上演台本・演出:渡辺えり、出演:尾上松也、吉岡里帆、和田琢磨、渡辺えり)を観た。前者はテネシー・ウィリアムズの有名作、後者は別役実が書いた『ガラスの動物園』の後日譚だ。2時間30分の『ガラスの動物園』を休憩なしで上演、15分休憩の後、1時間の『消えなさいローラ』を上演した。テンポのいい展開で、3時間30分の長さを感じなかった。

 私は、20年以上昔に富田靖子がローラを演じた『ガラスの動物園』を観ている。芝居の印象は残っているものの詳細を失念しているので、観劇前に戯曲を再読した。『消えなさいローラ』は未知の作品だ。観劇前に戯曲を読みたかったが入手できなかった。だから、内容を知らないままに観劇した。

 観劇前に戯曲を読んでいるのと、何も知らない場合と、どちらが芝居を楽しめるかはケースバイケースだ。今回の『消えなさいローラ』は、『ガラスの動物園』を観てすぐの後日譚なので、ワクワクした緊張感で別役ワールドの不可思議な展開を堪能できた。

 テネシー・ウィリアムズの自伝的戯曲『ガラスの動物園』は、第2次世界大戦直前の不況の時代に、米国の裏町に暮らす家族(母・姉・弟)の話である。父は出奔して行方不明、母は華やかだった自身の娘時代の話を繰り返すおしゃべり、姉は極端な引っ込み思案で足が少し不自由、倉庫で働く弟が一家の暮らしを支えているが、別の人生を夢見る詩人――そんな危うい家族の姿を巧妙に描いた芝居だ。

 この芝居は弟の回想という枠組みになっている。父親と同じように出奔し、母と姉を捨てた弟が、追憶のなかの家族に語りかけているのだ。

 そして『消えなさいローラ』は、回想した時点からさらに長い時間が経過している。場所は『ガラスの動物園』と同じ裏町の一室と思われる。登場するのは「男」と「女」の二人だけ。長い時間が経過した後、時間が停滞したような世界になっている。

 追憶劇である『ガラスの動物園』の世界全体をさらに追憶している不条理世界が『消えなさいローラ』のようだ。