『イスラム飲酒紀行』が明かす飲酒禁止イスラム圏の飲酒事情2023年11月08日

『イスラム飲酒紀行』(高野秀行/扶桑社/2011.6)
 先日読んだ『イラク水滸伝』の著者・高野秀行氏が12年前に出した次の本を、古書で入手して読んだ。

 『イスラム飲酒紀行』(高野秀行/扶桑社/2011.6)

 本書を読みたいと思ったのは、先々週(2023.10.28)の日経新聞・読書欄「半歩遅れの読書術」というコラムで生命科学者の仲野徹氏が紹介していたからである。15年前にイランで闇の飲酒の誘いを断った経験のある仲野氏は、本書が発刊されたとき、世の中にはなんと勇敢な人がいるのかと心底驚いたそうだ。

 本書は、原則的に飲酒が禁じられているイスラム圏の飲酒事情ルポである。世界の秘境を探訪する「辺境作家」高野秀行氏はほぼ毎日酒を飲むそうだ。それほど多量に飲むわけではなく、アル中ではないらしい。イスラム圏の国の取材の際も、ただ単に酒を飲みたくて酒を求めて彷徨する著者は、次のように述べている。

 「私はイスラム圏で酒のために悪戦苦闘を繰り返している。決してタブーを破りたいわけではない。酒が飲みたいだけなのだ。そして、実際に酒はどこでも見つかった。いつも意外な形で。」

 また、著者は次のようにも述べている。

 「酒の話になると反射的に食いつくように、誰か現地の人に会うと、反射的に片言の現地語で話しかけないではいられない。私は酒と同じくらい言語も好きなのだ。」

 イスラム圏でも高級ホテルで外国人対象に飲酒サービスをする所がある。だが、著者が求めるのは、タテマエの裏側のホンネの世界の飲酒の現場であり、酒を楽しむ現地の人々と酒を酌み交わして交流することである。「辺境作家」にして可能なディープな世界だ。だから、本書は面白い。

 私が特に意外に感じたのはイランである。イラン革命後は厳格なシーア派の原理主義の国のイメージがあるが、実はタテマエとホンネがある国だそうだ。12年前のルポだから、昨今の状況がどうなっているかはわからないが……。