ギリシア悲劇をモチーフにした『無駄な抵抗』は不思議世界2023年11月14日

 世田谷パブリックシアターで『無駄な抵抗』(作・演出:前川知大、出演:池谷のぶえ、渡邊圭祐、松雪泰子、他)を観た。ソポクレスの『オイディプス王』をベースにした作品と知り、関心がわいた。あのギリシア悲劇は数カ月前に観たばかりだが、確かに運命に抗おうとする「無駄な抵抗」の話だった。

 前川知大氏の『無駄な抵抗』は『オイディプス王』ほどシンプルな話ではなく、そのパロディでもない。「捨て子」「近親相姦」「父殺し」などのモチーフが共通しているものの、やや複雑な構成の不思議な舞台だった。昨今のジャニーズ問題を連想する所もある。運命論というよりは人間再生の気配を感じさせる話に思えた。

 舞台はギリシア劇場を模したすりばち状で、駅前広場という設定である。登場人物は10人、それぞれが独特の役割を担っている。その10人が、自分の役を演じているとき以外には、どこからともなく舞台に現れ、観客か背景人物のように立ったり座ったり歩いたりする。合唱をしないコロスのような存在だ。何も演じない大道芸人は、時に語り手にもなる。

 この駅前広場は、電車が停まらない駅の駅前広場である。半年前から電話が停まらなくなったそうだ。駅員はいない。自動改札は稼働していて、電車が通過するときにはアナウンスが流れる。駅前カフェの店長は電車を停める署名運動をしている。通過電車は人を轢いてもそのまま走り過ぎて行く。

 この不条理な設定には感心した。10人の登場人物は、駅前広場という異世界に取り残された幻のような存在に思えてくる。住人が10人だけの小宇宙のような舞台である。

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