筒井康隆氏の新刊『カーテンコール』は掌篇集2023年11月05日

『カーテンコール』(筒井康隆/新潮社/2023.10)
 筒井康隆氏の新刊が出た。2021年2月の『ジャックポット』から2年8カ月、この新刊は短篇集ではなく掌篇集である。オビには「これがわが最後の作品集になるだろう」とあり、吹き出しがついている。そこには――「信じていません!」担当編集者――とある。読者も同感である。

 『カーテンコール』(筒井康隆/新潮社/2023.10)

 筒井康隆氏は現在89歳、本書は2020年末から執筆した掌篇小説25篇を収録している。『ジャックポット』に収録した2つの掌篇(「花魁櫛」「川のほとり」)を再録しているので、この2篇は再読だ。それ以外の多くの作品も雑誌掲載時に読んでいる。はっきり憶えている作品もあれば、記憶が朧な作品もある。

 あらためて25篇をまとめて読み、醒めたまま見る夢のような筒井ワールドの芳醇な香気を堪能した。最新掌篇の大半には明快なオチがなく、宙ぶらりん状態で異空間に取り残された気分になる。読者は、さらなる彷徨に誘われる。

 私には「お時さん」「宵興行」「手を振る娘」が面白かった。最も印象深いのは「プレイバック」だ。検査入院中の「おれ」を次々に訪れる見舞客は筒井作品の主人公たちである。芳山和子(『時をかける少女』)、唯野仁(『文学部唯野教授』、神戸大助(『富豪刑事』)、千葉敦子(『パプリカ』)、穂高小四郎(『美藝公』)らと「おれ」の会話は文学論議を秘めていて興味深い。

 本書の装丁はSFに造詣が深い漫画家とり・みき氏である。この装丁が凝っている。表紙のカバーを外すと、閉じていた幕が開くのだ。カーテンコールである。

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