阿刀田氏の『ホメロスを楽しむために』で原文翻訳に誘われる2023年09月14日

『ホメロスを楽しむために』(阿刀田高/新潮文庫)
 古典文学は数多あるが、その嚆矢はホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』だろう。かなり昔にジュニア版を読んだ気がするが、原文翻訳は未読だ。数カ月前に『新トロイア物語』(阿刀田高)を読んだとき、ホメロスを読みたくなった。駅前の本屋の岩波文庫の棚に『イリアス』があったので購入し、数頁読んで投げた。文章は読みやすいが内容はわかりにくい。

 『イリアス』を読むには事前準備が必要だと思った。歌舞伎鑑賞と同じで、登場人物やストーリーをあらかじめ把んでいないと、読みこなすのが難しい。

 ダンテの『神曲』を読む際に阿刀田氏の『やさしいダンテ〈神曲〉』が役だったのに味をしめ、ネットで阿刀田氏を検索して次の本を見つけた。

 『ホメロスを楽しむために』(阿刀田高/新潮文庫)

 読みやすくて有益な本である。『イリアス』と『オデュッセイア』の内容紹介がメインで、現地(ギリシア、トルコ)取材の紀行文や詩人ホメロスへの考察もあり、飽きさせない。読み終えると『イリアス』の原文翻訳に取り組む気力がわいてくる。

 ホメロスの叙事詩に接してとまどうのは、人間と神様がゴチャゴチャに入り乱れている点だ。人間同士の戦争に神様たちの加勢や妨害を介入させる話に啞然とする。だが、阿刀田氏の解説を読むと、神様にもいろいろ事情があるとわかる。どっちつかずで身勝手なゼウスの立場も何となく納得できてしまう。

 阿刀田氏は人間と神々を同じ地平に置いてユーモラスに解説する。次のような一節に笑いつつもナルホドと思った。

 〔アキレウスの悲嘆を聞き、母なる女神テティスが現われ、「アキちゃん、どうしたの?」と、この母子、アキレウスの勇猛さにもかかわらず、どことなくマザコン的母子関係が匂って来るのです〕

 現在伝わっている『イリアス』はトロイア戦争のごく一部しか描いていない。「現状では〈アキレウス物語〉と呼んでもよいような作品である」という指摘に得心した。

 『イリアス』の登場人物を忠臣蔵になぞらえているのも面白い。老将ネストルは堀部弥兵衛金丸、ステネロスは大高源吾か神崎与五郎――そんな見立てである。忠臣蔵ファンの私は『イリアス』を身近に感じ、原文翻訳を読むのが楽しみになった。

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