村上龍の新作『ユーチューバー』はあっさり味2023年04月28日

『ユーチューバー』(村上龍/幻冬舎)
 書店の店頭に村上春樹の新作長編がうず高く積まれているなか、奥の棚に1冊だけあったもうひとりの村上の新作をやっと見つけて購入・読了した。

 『ユーチューバー』(村上龍/幻冬舎)

 私より4歳若い村上龍は24歳で鮮烈にデビューした。その後の『愛と幻想のファシズム』も衝撃作だった。いまだに私の頭の中では挑戦的な若手作家のイメージが強いが、時は流れて村上龍も70歳を超えた。

 本作は長編小説というよりは、あっさり読める連作集だった。ユーチューバーを描いた小説ではない。ユーチューバーの依頼に応じてテレビカメラの前で語る「70歳になったばかりの有名作家」の追憶譚がメインである。

 この小説では登場人物がやたらと飲酒する。作家は定宿のホテルで同伴女性やユーチューバーとワインを何本も空ける。ユーチューバーの狭いスタジオでは、収録の合間に作家はビールやウイスキーを飲み続ける。しかし、小説を読み進めていても酩酊気分にはならない。淡々としたうす味の小説である。濃厚さやエグさはない。

 登場人物たちが飲酒していても、その周辺には静寂がある。コロナ禍の街やホテルに人がいないからである。静寂の街のなかで静かに酒を飲んでいる。さまざまな記憶がパノラマのようによみがえってくる。しかし、酩酊はしない。そんな印象の小説である。