面白いけどややこしい『人類の起源』2022年12月10日

『人類の起源:古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』(篠田謙一/中公新書)
 今年のノーベル生理学・医学賞は「古ゲノム学」という新たな学問分野を切り開いたスバンテ・ペーボ博士が選ばれた。ノーベル賞発表の半年以上前に出た本書は「古ゲノム学」の最新の成果を紹介している。ノーベル賞効果もあり、よく売れているらしい。

 『人類の起源:古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』(篠田謙一/中公新書)

 本書は最新の知見に基づいた人類の起源の概説書だが、それ以上に最近のさまざまな古代ゲノム解析の結果を紹介する報告書である。著者自身が研究の当事者なので、研究の最前線の様子が伝わってきて興味深い。ただし、その内容はかなりややこしくて一読では十分に理解できない。

 本書で私が初めて知ったのは、DNAを高速で解読できる「次世代シークエンサ」なる新技術である。2006年頃から実用化され、これによって研究が飛躍的に進展したそうだ。

 発掘された古代人のDNA(サンプルに含まれるすべてのDNA)の解読が可能になり、2010年にはネアンデルタール人の持つすべてのDNAが解読できた。世界各地で発掘された多くの化石のDNAを解読すれば、さまざまな集団の移動・混合・置換え・消滅などが明らかになる。いま、まさにそんな研究が活況を呈しているそうだ。と言っても、研究にはいろいろな制約や困難があるようだ。

 古代人だけでなく現代人のDNAも研究対象である。私が十分に理解できているわけではないが、DNAには過去から現在までの変異が刻印されているのだ。生物の不思議を感じる。

 十分の咀嚼できていない本書で私が感じたのは、人類の起源と進化の歴史は単純ではないということである。猿人→原人→旧人→新人という進化はわかりやすい。大筋で間違いではないかもしれないが、その実態はかなりややこしいようだ。限られた材料をベースに推測している段階では、すっきりしたわかりやすいモデルが構築可能である。しかし、材料が増えてくるとシンプルなモデルでは捉えられない事象が出てくる。おそらく、この世界の実相はとても複雑なのだと思う。複雑な事象の説明を試みると難解になりやすい。

 古代ゲノム学は、そんな状況なあるのだろうという感想を抱いた。