ショーン・ホームズ演出『セールスマンの死』は脳内風景のような舞台2022年04月09日

 PARCO劇場で『セールスマンの死』(演出:ショーン・ホームズ、出演:段田安則、鈴木保奈美、他)を観た。アーサー・ミラーが1949年に発表した有名作である。私は4年前に風間杜夫主演の『セールスマンの死』を観ていて、この名作の舞台を観るのは2回目である。

 英国人演出家による今回の舞台は、4年前の舞台とはかなり違う印象を受けた。舞台装置の仕掛けが斬新で、主人公の脳内世界の物語という雰囲気になっている。

 舞台中央には古びた大きな冷蔵庫が鎮座し、中空には電信柱が2本斜めにぶら下がっている。別役実世界を連想させるし、ダモクレスの剣のようでもある。冷蔵庫と電信柱は全編を通じてそのままで、冷蔵庫の前かつ電信柱の下で芝居が進行する。

 この戯曲は主人公(老セールスマン)の実時間の物語と回想シーンがないまぜになっているが、それを巧く舞台で表現していると思った。

 4年前にこの芝居を観たのはトランプ大統領の頃で、主人公の夢破れた老サラーリーマンがラストベルト地帯のトランプ支持白人労働者に重なって見えた。今回この芝居を観て、あらためて、これは家族劇だと気づいた。幻想を相続する親子の悲劇であり、喜劇でもある。そこには、確かに普遍性がある。それ故にこの戯曲は名作たりえているのだと思う。

 今回の舞台は、ラストの「死」の場面をシンボリックな演出にし、死後の葬儀場面をカットしている。妻の最後の述懐もない。確かにこの方が効果的でシンボリックだ。