唐十郎の『泥人魚』をシアターコクーンで観た2021年12月16日

 シアターコクーンで『泥人魚』(作:唐十郎、演出:金守珍、出演:宮沢りえ、風間杜夫、他)を観た。2003年に劇団唐組で初演した芝居で、唐十郎の作品としては比較的最近のものだ。私は今回が初見である。戯曲は読売文学賞や鶴屋南北戯曲賞を受賞したそうだが、いまでは入手できず、読んでいない。

 諫早湾干拓のギロチン堤防をモチーフに摩訶不思議な唐ワールドが繰り広げられる。冒頭、あのギロチンが轟音をたてながら次々と落とされて行く映像が流れる。そのシーンで、舞台が外界から遮断された異世界に転換した気分になる。

 その異世界は、ブリキの湯たんぽが山ほどぶら下がっている「ブリキ加工店」だ。奇抜な設定に期待が高まる。そこに店主の風間杜夫が大きなブリキ板を頭上に抱えて登場する。この店主、まだらボケで、午後6時になると詩人・伊藤静雄(伊東ではない)に変身する。風間杜夫の怪演が快調である。

 風間杜夫が唐作品に出演するのは 『唐版 風の又三郎』(シアターコクーン)、 『ベンガルの虎』(新宿梁山泊)に続いて3作目だそうだ。本人は「齢72にしてアングラデビュー」と語っているが、水を得た魚のような存在感がある。齢を重ねて怖いものがなくなるパワーだろうか。同世代として頼もしい限りである。

 唐十郎の世界は脈略が錯綜し、さまざまなモノやイメージが乱舞する。今回は伊東静雄、島尾敏雄、天草四郎、かくれキリシタン、人間魚雷、ガラスの義眼、さくら貝の鱗、ブリキの鱗……などなどである。そして、宮沢りえの人魚姿へと収斂していく。

 うかつにも私は知らなかったが、宮沢りえはこれまでに数多くの唐作品に出演してきたそうだ。すでに女座長のような風格が出ている。頼もしい限りである。

 大劇場のシートに身をうずめ、文化功労者・唐十郎の芝居を重鎮や若手が演ずる舞台を観ていて、半世紀以上昔のギューギュー詰め紅テントの観客には想像できなかった未来だと思った。21世紀になって、くり返し上演される唐作品は、すでの伝統芸能のようでもある。

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