ナンセンス・コメディ『イモンドの勝負』は東京五輪の賜物?2021年12月08日

 本多劇場でナイロン100℃の『イモンドの勝負』(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、出演:大倉孝二・他)を観た。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(ケラ)主宰のナイロン100℃の舞台は初体験である。

 3カ月前にケラ演出の『砂の女』を観て、初めてこの鬼才を知った。『イモンドの勝負』は『砂の女』とはまったく異なるナンセンス・コメディで、こちらがケラ氏の本領のようだ。休憩を含めて3時間を超える舞台は、絢爛なイルージョンと醒めたナンセンスが織りなす不思議な世界だった。

 『砂の女』では垂直方向に拡がる舞台装置と壮大なプロジェクションマッピングに魅せられた。『イモンドの勝負』も舞台は垂直方向に拡がる街になっていて、プロジェクションマッピングも華麗だ。垂直舞台で不可思議な勝負の世界が展開される。

 冒頭のベンチのシーンは別役実を思わせるが、不条理というよりはブラックユーモアのナンセンスな展開になる。ベンチに横たわって死んでしまった主人公(大倉孝二)の幽体離脱シーンには驚いた。その後の展開でも、登場人物たちが生きているのか死んでいるのかよくわからない。ゾンビをバンビと呼ぶナンセンスが楽しい。

 7000人の孤児を抱えると誇示しながら実は2人の孤児しかいない孤児院の助成金獲得運動が、ナンセンス・コメディのなかで妙にリアルに感じられる。人間を食べる怪獣のような動物はペットのようでもあり、妖しい電波で人間をコントロールする宇宙人も登場する。この舞台を観ながら倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』を連想した。荒唐無稽のなかに辛辣なものを感じる。

 この舞台の背後には「オリンピック」がある。東京五輪に批判的だったケラ氏はパラリンピック開会式の演出を引き受けるものの、開催延期にともなって降板する。近々開催予定のまま、いつ開催されるか、あるいはすでに開催されたのも不分明なまま忘れられようとしている国際的(あるいは宇宙的)な競技大会――この設定にケラ氏の実体験がどの程度反映されているかはわからない。とても面白いテーマだと思う。