感染症との戦いに終わりはないと認識2020年04月11日

『感染症の世界史』(石弘之/角川ソフィア文庫)
 新型コロナウイルスで緊急事態宣言という時節柄、書店に並んだ関連書から次の文庫本を購入して読んだ。

 『感染症の世界史』(石弘之/角川ソフィア文庫)

 2014年刊行の原著を2018年に文庫したもので、私が入手したのは2020年3月25日の7刷である。売れているようだ。著者は元・朝日新聞編集委員の著名な環境問題ジャーナリストで、東大教授、駐ザンビア特命全権大使、国連顧問などを歴任している。

 本書は世界史の本というよりは感染症の解説書であり、その中でそれぞれの感染症の歴史にも言及している。ジャーナリストらしく、広範な話題を目配りよくまとめていて勉強になる。われわれを取り巻く感染症の多種多様に圧倒され、人類の歴史は感染症との終わりなき戦いの持続だと納得させられる。

 本書で取り上げている主な感染症は、エボラ出血熱、デング熱、天然痘、マラリア、ハシカ、結核、コレラ、ハンセン病、エイズ、鳥インフルエンザ、スペインかぜ、SARS、ラッサ熱、ペスト、肺炎、チフス、西ナイル熱、ピロリ菌、ヘルペス、カポジ肉腫、風疹、T細胞白血病などである。この羅列だけで頭がクラクラしてくる。これらの感染症を引き起こすにはウイルス、細菌、原虫などの微生物である。

 ウイルスや微生物の多くは、われわれ生物にとって必要不可欠な存在であり、それと共存していくことが運命づけられている。撲滅できる相手ではない。本書は、そんな基本的枠組みをおさえたうえで、さまざまな感染症の起源と推移そして現状を解説している。

 人類は進化競争の生き残りだが、ウイルスや微生物はより速い世代交代で進化してきた生き残りであり、これからも効率よく進化していける。抗生物質やワクチンが効かない新型が次々に登場する。だから、人類と感染症の戦いに終わりはない。

 と言っても、本書は絶望を語っているのではない。地球環境の変化、人の行動の変化、高齢化などと感染症拡大の関係を解説し、終わりなき戦いと認識したうえで成すべき事項も述べている。

 それにしても文明と感染症が切っても切れない表裏一体だと認識しなければならいのは、何ともやりきれない。