話題の『三体』はブッ飛んだSF2019年12月23日

三体』(劉慈欣/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳/早川書房)
 遅ればせながら、話題の中国SF『三体』を読んだ。

 『三体』(劉慈欣/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳/早川書房)

 原作の刊行は2008年、英語版でヒューゴー賞を受賞したのが2015年、日本語版は今年(2019年)7月に出た。

 物語は1967年の文化大革命のシーンから始まる。若い女性天体物理学者の目の前で父の物理学者が惨殺される。このシリアスな状況がどのようにSFにつながっていくのだろうと引き込まれる。

 その後の展開は奇想天外、荒唐無稽とも言えるブッ飛び方で、この状況と現象をどのように説明して収束するのだろうかと心配になる。

 この小説には、主人公がバーチャル・リアリティのゲーム世界を体験するシーンがくり返し登場する。その世界の夢幻性が秀逸である。このゲーム世界には歴史上の人物(始皇帝、墨子、アリストテレス、ガリレオ、ニュートン、アインシュタイン等々)が数多く登場し、怪しげな言動をくり広げる。まさに夢の中の別世界である。

 ゲーム世界と現実世界が連動する小説は珍しくないが、その連動の由縁が明快に説明されているのが気持いい。文化大革命のシーンもちゃんと伏線になっている。

 とは言っても終盤は宇宙人と多次元が登場して、話について行くのが大変である。思弁的、文明論的かと思うとスパイ大作戦やスターウォーズを彷彿させる流れになったりもする。

 オールドSFファンの硬直化しつつある頭でも何とか面白く読み終えたが、この話はこの1巻で完結しているのではなかった。三部作の第1部だった。第2部の翻訳は2020年に出るそうだ。