『カオス・シチリア物語』は印象深い不思議な映画2019年12月24日

 DVDで『カオス・シチリア物語』を観た。1984年公開のイタリア映画で、原作はルイージ・ピランデッロである。

 先日の小松左京展の記念イベントでヤマザキ・マリ氏がピランデッロを熱く語り、この映画を推奨していたのに突き動かされてDVDを入手した。

 シチリアの異世界的な情景の中で摩訶不思議な物語がくり広げられる面白い映画だった。私は昨年、シチリアの古跡を巡る10日間の旅行を体験している。この映画で私の眺めた風景が確認できたわけではないが、映画に写し出される山・地中海・古跡・歴史的街並み・オリーブ畑・荒れ地などから浮かびあがるシチリアの雰囲気に懐かしさを感じた。

 この映画は4つの話とプロローグ、エピローグから成るオムニバスで、1冊の珠玉短篇集を映像化したような作品である。鈴をつけられたカラスが空を舞う俯瞰がすべての短篇をつないでいる。通底する音楽もいい。

 4つの話のタイトルは『もう一人の息子』『月の病』『甕』『レクイエム』で、エピローグは作家ピランデッロの幻想的な帰郷譚になっている。

 それぞれのテイストは異なり、どれも面白いが『甕』が印象に残った。甕から出られなくなった男の話である。満月の下、甕から首だけを出した男の回りで多くの男女が踊りだすシーンがスゴい。甕の中の男も祝祭気分で浮かれている。わけがわからないが何かを象徴しているように思える。