奇想の作家ピランデッロの短篇は魅力的だ2019年12月26日

『月を見つけたチャウラ:ピランデッロ短篇集』(関口英子訳/光文社古典新訳文庫)
 DVDで観た『カオス・シチリア物語』が面白かったので次の文庫本を入手して読んだ。

 『月を見つけたチャウラ:ピランデッロ短篇集』(関口英子訳/光文社古典新訳文庫)

 ピランデッロは250近い短篇を書いたそうだ。その中から訳者が選んだ15篇を収録したのが本書である。文学的な短篇小説集を読むのは久しぶりである。珠玉の短篇集の醍醐味を堪能する至福のひとときを過ごした。

 本書には『カオス・シチリア物語』の元になった『ミッツアロのカラス』『甕』も収録されている。もちろん、映画と小説は異なる表現手段であり、それぞれに別種の魅力がある。

 ピランデッロの短篇には不思議な味わいがある。幻想、土着、滑稽、怪異、死の影などを帯びた「ヘンな話」である。私には『ひと吹き』『甕』『登場人物の悲劇』『フローラ夫人とぞの娘婿ポンツァ氏』『ある一日』が面白かった。

 『登場人物の悲劇』はメタフィクションであり、この短篇を読んだ後なら戯曲『作者を探す六人の登場人物』をもっと面白く読めそうな気になった。そのうち、あの高名な戯曲を再読したい。

 『ひと吹き』は怪異SFとも言える。結末は幻想的で美しい。

 『ある一日』では、ベッドに横たわる主人公にドアから歩み寄ってくる少女(孫か?)が、ベッド近づくに従って年齢が上がり大人になっていく。人生のパノラマ視を反映しているようなこの作品は、作者69歳で亡くなる数か月前に発表した短編だそうだ。