「シアトリカル」唐十郎の40年と大島新・大島渚2007年12月26日

 映画「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」を観た。監督の大島新は大島渚の次男だそうだ。30年以上前の一時期、状況劇場に通いつめた私には面白い映画だった。

 上映パンフに扇田昭彦氏も書いているが、この映画を観ると大島渚の「新宿泥棒日記」がよみがえってくる。私はこの映画で初めて唐十郎に接し、強いインパクトを受け、それがきっかけで状況劇場の芝居を観るようになった。「新宿泥棒日記」の主演の横尾忠則には独特の存在感があったが、映画全体を統べているのは随所に登場する唐十郎だった。大島渚が唐十郎に惹かれ、彼を迷宮巡りの案内人とした撮った映画が「新宿泥棒日記」なのだと思う。

 それから約40年後、大島渚の倅の大島新が撮った「シアトリカル」は迷宮巡りの映画ではないが、唐十郎の発散するシアトリカルな(芝居じみた)エネルギーを捉えた映画だ。40年を経て、映画を撮る監督は親父から倅に世代交代したが、被写体の唐十郎は27歳が67歳になっただけで、その存在感は変わっていない。これは驚異だ。

 昔、ハーメルンの笛吹き男に誘われる子供のように紅テントの立つ場所を巡り歩いた。記憶を辿れば、渋谷の空き地(現・パルコの場所)、吉祥寺の空き地(風呂屋の跡)、新宿西口の空き地(現・高層ビル街)、運河に浮かぶ石炭船、大久保の工場跡地、夢の島(現・お台場あたりか?)、上野公園不忍池、青山墓地・・・など。 その後、紅テントではなく普通の劇場でも唐十郎作品を観たが、いつしか年月が過ぎ21世紀になった。

 状況劇場解散後、劇団唐組が結成されたことは知っていたが、うかつにも、未だに紅テントでやっているとは、この映画を観るまで知らなかった。大鶴義丹の「昭和ギタン」を読んでも、往時の雰囲気を懐かしんだだけだったが、「シアトリカル」には、大鶴義丹が幼少時の昭和に目撃した〈劇団の世界〉が平成の世に現前している。

 劇団員との〈宴会〉でジョンシルバーを歌う唐十郎の姿は、ナツメロを歌う老年ではなく、未だに扇動者の面影がある。かつて、平岡正明がヒトラーの青年浮浪者時代を唐十郎になぞらえたことがあったが、67歳の唐十郎を観て毛沢東を想起した。晩年になって若者を扇動して文化大革命を引き起こした毛沢東は、間違いだらけの晩節だったが、唐十郎は間違ってはいない。芝居の魔力に憑かれた男・唐十郎の元気に脱帽する。同時に、人間の年の取り方を考えさせられた。

コメント

_ 株式会社いまじん ― 2008年09月29日 16時25分

初めまして。映画「シアトリカル」を製作しました株式会社いまじんと申します。劇場まで足を運んでいただきありがとうございました。
このたび「シアトリカル」のDVDを発売いたしました。全国の書店・DVDショップでお取り寄せいただくか、弊社HP、amazon.co.jp、紀伊國屋書店のWEBサイトなどからもご購入いただけます。もしよかったら是非コレクションに加えてください。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2007/12/26/2530930/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。