新風舎倒産----出版の新形態は?2008年01月22日

 自費出版の新風舎が倒産した。同業の碧天舎も昨年すでに倒産しているそうだ。文芸社はまだやっているようだ。「あなたの原稿を本にします」というこのビジネスには多少の関心があった。インチキ臭いのは確かだが、世の中のある種のニーズと昨今の出版事情にマッチしていると思えたからだ。

 通常の出版の世界は、少数の著者と多数の読者から成り立ち、読者の支払った金を著者・出版社・書店が受け取る。しかし、本を読む人が減少し、何かを表現したい人が増加してくると、「著者の数<読者の数」ではなく「著者の数=読者の数」に近い世界が現れてくる。
 そうなると、読者ではなく著者が支払った金を出版社・書店が受け取るというビジネスも出現する。このプロセスに読者が関わらないのは大きな問題だが、読者は多少の費用あるいは無料で書籍を享受することになる。俳句の世界などは「作る人の数=読者の数」に近く、多くの句集は著者の負担で出版されているのだと思われる。

 オンデマンド出版の技術によって低コストで小部数の書籍制作が可能になっているし、インターネットの発展に伴ういわゆるロングテール理論で小部数書籍が流通する可能性も出てきたのだから、「著者の数=読者の数」の新しい出版形態の可能性もあるよう思われる。

 新風舎や碧天舎の倒産の原因は知らないが、出版社も著者も「新たな状況」を醒めた眼で正しく認識し、インチキ性や勘違いを排除していれば成功したかもしれない。

 ただし、本質的な問題として「多数の著者」が書く本の品質はどうなのかということはある。自費出版の大半は、文章・内容ともに「商品」のレベルに達していないのは確かだろう。その内の何パーセントかは、ある種の技術によって商品のレベルになるかもしれない。また、「商品」ではなく「記念品」が適当なものも多いだろう。もちろん、記念品にもある程度の品質は必要だが。

 これまでに、初対面の人から名刺交換と同時に著書の新書本をもらったことが2回ある。有名出版社の新書本で、自費出版ではない。しかし、おびただしい新書本が刊行されている現在、「名刺代わり」に使われている新書本も結構あるかもしれない。ハードカバーだと、かさばって「贈品」のような感じになり、受け取る側に鬱陶しさが生じることもあるが、薄い新書だと手軽で受け取りやすい。著者プロフィールも分かるし、パラパラと拾い読みする気になる可能性も高い。
 自費出版のひとつの形として「名刺代わりの薄い新書本」をプロデュースするのはビジネスになると思う。すでに、あちこちでやっているかもしれないが。

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