小林恭二17年ぶりの新作小説の主人公は俳人・西東三鬼だが… ― 2026年09月09日
小林恭二氏が久々に小説を発表した。私は30年以上前に小林氏の小説をかなり読んだ。『ゼウスガーデン衰亡史』『瓶の中の旅愁』『カブキの日』など独特の異世界を現世に絡めて織り上げる長編に魅せられた。この十数年小説発表は途絶え、大学教授に専念しているのだろうと思っていた。
新作のタイトルが『三鬼』と知り、一瞬、鬼の世界を書いたのかと驚いた。西東三鬼の「三鬼」と気づき、なあんだと感じた。
『三鬼』(小林恭二/講談社)
新作が俳人・西東三鬼の話と知って拍子抜けしたのは、まさに小林氏のテリトリーの自家薬籠中の素材に思えたからだ。
私は30年ほど昔に俳句関連の本を集中的に読んだことがあり、少しだけ句作もした。それ以前に桑原武夫が俳句は一流文学になりえないとした『第二芸術』に共感していた。いまも、基本的には変わらない。
にもかわらず俳句に入れ込んだ時期があったのは、俳句のゲーム性に気づいたからである。それを教えてくれたのは小林氏の著作『俳句とは何か』『青春俳句講座』『俳句という遊び』『俳句という愉しみ』などだった。あの頃、西東三鬼にも魅せられ『神戸・続神戸・俳愚伝』(西東三鬼/講談社文芸文庫)も読んだ。この文庫本の解説の筆者は小林氏だった。
そんなわけで、小林氏と西東三鬼は「つきすぎ」と感じつつ、西東三鬼は興味深い人物なので、読まないわけにはいかないと思い、本書を繙いた。
小林流に料理した西東三鬼伝を想定して読み始めたが、まったく違っていた。あらためて、オビをよく見ると「史実とフィクションを融合させた、ノンストップ・歴史エンタ-テインメント」とある。事前に見落としていたこの惹句通りの小説である。
真珠湾攻撃を翌年にひかえた昭和15年の西東三鬼を描いたこの小説は、時おり時空が拡大し、鎌倉時代にまで時間が遡り、さらには東シナ海を跳梁する倭寇の歴史からマレー半島などをめぐるオランダやイギリスの争いにまで話が及ぶ。鄭成功の父親やチャンドラ・ボースなども顔を見せる。そんな世界と西東三鬼を絡ませるのが小林氏の幻術的な離れ業である。
それだけでなく、ノンフクション評伝風に高浜虚子を頂点とする俳句世界の政治空間を的確に描き、京大事件にはじまる俳句弾圧の背後にあるものの正体を妄想的に探っている。
著者の西東三鬼への愛と小説家としての虚構力を十全に発揮した小説だ。
新作のタイトルが『三鬼』と知り、一瞬、鬼の世界を書いたのかと驚いた。西東三鬼の「三鬼」と気づき、なあんだと感じた。
『三鬼』(小林恭二/講談社)
新作が俳人・西東三鬼の話と知って拍子抜けしたのは、まさに小林氏のテリトリーの自家薬籠中の素材に思えたからだ。
私は30年ほど昔に俳句関連の本を集中的に読んだことがあり、少しだけ句作もした。それ以前に桑原武夫が俳句は一流文学になりえないとした『第二芸術』に共感していた。いまも、基本的には変わらない。
にもかわらず俳句に入れ込んだ時期があったのは、俳句のゲーム性に気づいたからである。それを教えてくれたのは小林氏の著作『俳句とは何か』『青春俳句講座』『俳句という遊び』『俳句という愉しみ』などだった。あの頃、西東三鬼にも魅せられ『神戸・続神戸・俳愚伝』(西東三鬼/講談社文芸文庫)も読んだ。この文庫本の解説の筆者は小林氏だった。
そんなわけで、小林氏と西東三鬼は「つきすぎ」と感じつつ、西東三鬼は興味深い人物なので、読まないわけにはいかないと思い、本書を繙いた。
小林流に料理した西東三鬼伝を想定して読み始めたが、まったく違っていた。あらためて、オビをよく見ると「史実とフィクションを融合させた、ノンストップ・歴史エンタ-テインメント」とある。事前に見落としていたこの惹句通りの小説である。
真珠湾攻撃を翌年にひかえた昭和15年の西東三鬼を描いたこの小説は、時おり時空が拡大し、鎌倉時代にまで時間が遡り、さらには東シナ海を跳梁する倭寇の歴史からマレー半島などをめぐるオランダやイギリスの争いにまで話が及ぶ。鄭成功の父親やチャンドラ・ボースなども顔を見せる。そんな世界と西東三鬼を絡ませるのが小林氏の幻術的な離れ業である。
それだけでなく、ノンフクション評伝風に高浜虚子を頂点とする俳句世界の政治空間を的確に描き、京大事件にはじまる俳句弾圧の背後にあるものの正体を妄想的に探っている。
著者の西東三鬼への愛と小説家としての虚構力を十全に発揮した小説だ。

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