37年前の島田雅彦俳優体験記を読んだ2023年10月13日

『汗のドレス』(島田雅彦・唐十郎/河出書房新社/1986.6)
 ネット古書を探索して入手した次の本を読んだ。

 『汗のドレス』(島田雅彦・唐十郎/河出書房新社/1986.6)

 今月末、下北沢ザ・スズナリで新宿梁山泊の〈若衆公演〉『少女都市からの呼び声』(作:唐十郎、演出:金守珍)観劇を予定している。その前に本書を読みたかったのだ。島田雅彦は37年前の24歳のとき、この芝居に出演している。本書は、そのときの島田雅彦の俳優体験記であり、唐十郎のコメント・エッセイも収録している。

 私は今年になって『少女都市からの呼び声』を既に2回観ている。今月末予定の観劇は3回目になる。演出はどれも金守珍だが、舞台や役者はかなり異なる。最初に観たのは花園神社境内のテント公演版である。2度目に観たのはオープンしたばかりのシアター・ミラノザでの大劇場版だ。そして次回は小劇場版になる。

 『少女都市からの呼び声』は、状況劇場が1969年に紅テントで上演した『少女都市』をベースにした芝居だ。この『少女都市』が私の紅テント初体験で、強烈な印象を受け、その後、紅テントを追うことになる。今回の三連続公演を追うのも、初体験の衝撃の余波だと思う。

 シアター・ミラノザでの公演パンフに島田雅彦のインタビュー記事があり、その記事で本書を知った。花園神社のテント公演を観たとき、事前に読んだ戯曲には登場しない「養老先生」「インターン」「一輪車に乗った島田雅彦」などが出てきたので、色々なバージョンがあるのだろうと思ったが、本書を読んでおよその事情がわかった。

 唐十郎は編集者から島田雅彦の出演を打診され、当時刊行されていた養老孟司と島田雅彦の対談本を元に「養老先生」と「インターン」の会話などを追加したのだ。このとき、島田雅彦は一輪車で登場したわけではないが、舞台でヴァイオリンを披露している。

 本書は芝居の練習から本番終了までの体験記で、内側から見た芝居つくりを窺えて興味深い。島田雅彦は俳優に転職したのではなく、体験記をまとめるという編集者の企画に乗ったわけだから、劇団内での立場は微妙だったと思う。そんな立場の克服を試みるさまも伝わってくる。

 本書の末尾近くの以下の文章が、役者と作家の違いをうまく表現していると思った。

 「この文章は芝居の陶酔が醒めたあとでなければ、書けなかった。(略)ぼくは大変、自虐的なことをやったといわざるを得ない。体験を言葉に翻訳することには無理がある。芝居体験は疲れた中枢のリハビリテーションになったが、そのプロセスを記述する作業はリハビリの成果を半減させてしまったようだ。」

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