「拓跋国家」を描いた「岩波講座 世界歴史」第6巻2022年04月25日

『中華世界の再編とユーラシア東部 4~8世紀(岩波講座世界歴史06)』(責任編集:荒川正晴/岩波書店)
 「岩波講座 世界歴史」の第6巻をやっと読了した。

 『中華世界の再編とユーラシア東部 4~8世紀(岩波講座世界歴史06)』(責任編集:荒川正晴/岩波書店)

 先月読んだ第5巻『中華世界の盛衰 ~4世紀』に続く中国史の2巻目で、五胡十六国から唐の前半までを扱っている。論文10編とコラム5編という構成は全巻共通のようだ。魏晋に続く五胡十六国・南北朝・隋・唐の時代は北方遊牧民と漢人が融合していく時代であり、私には非常に興味深い時代だ。

 巻頭論文『中華世界の再編とユーラシア東部』(荒川正晴)が読み応えがあり、勉強になった。論文の冒頭では次のようにこの時代を概観している。

 「漢帝国の崩壊後、中華世界が隋唐帝国を生み出して再編されるにいたるまで、この時代はユーラシアサイズで多くの民族による移動と新たな地域形成、相互の接触・融合が認められ、中国の動きもこうした時代環境に大きく規定されていたといえよう。そして、こうした時代の動きを牽引していたのが、草原地域に拠っていた遊牧勢力の存在であった。」

 時代を牽引した遊牧勢力は多様だが、この時代においては鮮卑の拓跋部が筆頭だろう。本論文では、北魏に始まり北朝系諸王朝から隋唐朝までを「拓跋国家」と呼ぶことがあると明記している。隋唐には胡族的な秩序や遊牧的な要素が息づいていたのだ。半世紀以上昔に私が高校世界史で習ったイメージとはかなり異なる。これが、現在の歴史学の見方なのだと思うと、何故かワクワクする。

 この論文では鮮卑をモンゴル系と書いている。以前に読んだ本には鮮卑が何民族かは「不明」とあった。モンゴル系というのは新しい知見なのだろうか。

 巻頭論文以外では「十六国北朝隋唐政権と中華世界」(佐川英治)と「トルコ系遊牧民の台頭」(鈴木宏節)を興味深く読んだ。やはり、北方遊牧民の話は面白い。

 また、ソグド人に関しても本巻のいくつかの論文で言及している。ソグド研究の第一人者である吉田豊氏と影山悦子氏のコラムも掲載されていて、ソグド人に関心のある私にはうれしかった。この時代におけるソグド人の存在感が伝わってくる。