19世紀ウィーンの狂騒の日々が眼前に浮かぶ『青きドナウの乱痴気』2021年10月29日

『青きドナウの乱痴気:ウィーン1948年』(良知力/平凡社ライブラリー)
 ウィーンの1848年革命を描いた社会史の傑作と言われる次の歴史書を読んだ。

 『青きドナウの乱痴気:ウィーン1948年』(良知力/平凡社ライブラリー)

 小説のような書き出しの読みやすい文体で、19世紀のウィーンに引き込まれ、興味深く読了した。本書で1848年革命が理解できたわけではなく、不思議なものを読んだという気分である。知識を整理して再読すればより楽しめるだろうと感じた。

 本書のことは数年前に読んだ 『歴史学ってなんだ?』(小田中直樹)で知った。小田中氏は本書を「歴史小説のようにすらすら読めるが、ウィーンの革命を描き出すことに情熱を燃やした著者が、自分の命を削りながら文章を紡ぎ出した歴史書」と紹介していた。著者の良知氏はがんに侵されいて、闘病のなかで本書を執筆し、その「あとがき」に記した日付の2週間後に55歳で亡くなったそうだ。小田中の紹介で本書に興味を抱いたものの、入手して読み始めるまでに時日を要した。

 私は1848年革命については高校世界史ほどの知識しかなく、オーストリアではメッテルニヒが失脚して亡命したということぐらいしか知らなかった。本書はウィーン革命の現場報告のような内容であって、教科書的に革命を解説しているわけではない。私のような基本的知識に乏しい読者にとっては、わかりにくい事項や混乱する点があった。

 と言っても、私が混乱したのはウィーン革命そのものがわかりにくく、混乱していたからだとも思える。皇帝軍、市民軍、国民軍、貴族、司祭、市民、職人、学生、プロレタリアート、女性、ゲルマン系やスラブ系の各民族などが入り乱れた「革命」騒動は敵味方が判然としないこともあり、まさに「乱痴気」である。

 1948年3月から10月までの多様な人々(下層の人々が多い)の動きを描いた本書は、革命のわかりにくさの実態を提示しているように思える。この半年余りの「乱痴気」を読んでいて、われわれ団塊世代が1960年代末に体験した「乱痴気」を連想した。

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