『空間は実在するか』で空間と時間の不思議を再認識2020年12月10日

『空間は実在するか』(橋元淳一郎/インターナショナル新書/集英社インターナショナル)
 橋元淳一郎氏の新刊新書を新聞広告で知り、早速購入して読んだ。

 『空間は実在するか』(橋元淳一郎/インターナショナル新書/集英社インターナショナル)

 橋元氏には「時間は物理的実在ではない」と論述した著書があり、その時間論に惹かれた経験があり、今度は「空間」かと驚き、興味がわいたのである。

 橋元氏の時間論を読んだのは比較的最近のような気がしていたが、読書メモを調べると 『時間はどこで生まれるか』 を読んだのは2007年、 『時間はなぜ取り戻せないのか』『時空と生命』 を読んだのは2010年、10年以上も昔のことだ。

 これらの本を十分に咀嚼できたわけではなく、その内容の大半は失念している。だが、とても面白くて刺激だったことは鮮明に憶えている。「物理的実在でない時間は生命現象によって発生した」という、私にとっては驚くべき論旨が記憶に残っている。

 橋元氏の『時間はどこで生まれるか』を読んだ2007年、福岡伸一氏の『生物と無生物のあいだ』も読み、両者に通底するものを感じた。今回の『空間は実在するか』のオビには、福岡伸一氏の「この哲学にしびれた!」との惹句がある。

 『空間は実在するか』は、「時間論」に対抗した驚くべき「空間論」ではなく、基本的には橋元氏の従来の時間論をわかりやすく解説した内容だった。よく考えてみれば、以前の著作でも「ヒッグス場が生じることで質量が生じた。それ以前には時間も空間もなかった」と述べていた。物質(質量)が空間を作り、生命が時間を創った――それが本書の要諦である。

 ほとんど失念しているとは言え、以前に橋元氏の時間論3冊を読んでいたおかげか、比較的スムーズに本書を読み進めることができ、復習気分で実数の時間軸と虚数の空間軸からなるミンコフスキー空間の紡ぎ出すセンス・オブ・ワンダーを堪能できた。

 私は安易に時空という言葉を使うことがあるが、本書を読んで、あらためて時間と空間が一体だと認識した。時間の測定より空間の測定の方が困難だとの話も意外だった。時間は原子時計があるが、空間には原子レベルでの原器を作るのが難しいそうだ。本書を機に前著も再読して橋元時間論の理解を深めたくなった。