小松左京世界の気宇壮大な懐かしさに浸る2020年12月30日

『いまこそ「小松左京」を読み直す』(宮崎哲弥/NHK出版新書)
 年末には、今年購入した未読の本が気になる。もっと前からの未読本も多いが、年の瀬の焦燥で近視眼的になるようだ。で、今年7月刊行の次の新書を一気読みした。

 『いまこそ「小松左京」を読み直す』(宮崎哲弥/NHK出版新書)

 昨年(2019年)7月放映のテレビ番組「100分de名著 小松左京スペシャル」のテキストがベースの新書である。小松左京ファンの私は、もちろんこの番組を観ている。だから、この新書の内容を推測できる気がして、後回し「積ん読」になっていた。
 
 本書を読んでいると、記憶の底から小松左京世界がせり上がってきて、未来や宇宙に対峙している気分になる。年末の締メ読書で浩然の気を養った。

 私の小松左京とのファースト・コンタクトは、中学3年のときの『日本アパッチ族』で、その面白さに抱腹した。高校生になって読んだ『復活の日』に圧倒され、『果しなき流れの果に』を『SFマガジン』連載のリアルタイムで読み、その超絶展開に驚嘆・感動した。小松左京は私にとって格別の存在になった。

 「100分de名著」は25分4回の番組で、「小松左京スペシャル」は「①地には平和を」「②日本沈没」「③ゴルディアスの結び目」「④虚無回廊」という構成だった。妙味ある選択と感心したが、「果しなき流れの果に」が入ってないのが不満だった。広大な小松ワールドをたった4作品で論じるのは無理だとも思った。

 『いまこそ「小松左京」を読み直す』はテレビで取り上げた4作品の章に加えて『果しなき流れの果に』の章が追加されている。この新たな章が充実していて、本書全体のキーになっている。それぞれの章の論述もテレビでのコメントよりは深くて広い。正面から論じるのが容易でない巨人・小松左京を的確に捉えている。

 初期の長編『果しなき流れの果に』は時空の「認識」や「意識」を突き詰めていく壮大な物語である。未完に終わった最後の長篇『虚無回廊』には「人工実存」が登場する。先日読んだばかりの『クオリアと人工意識』(茂木健一郎)を連想した。

 著者が指摘しているように、小松左京の思考は「目的論」的であり、そこに展開される世界は科学的というより宗教的、神学的とも言える。自然科学や社会科学の知見をベースに、それを超えようと模索しているのが小松ワールドである。著者は、SFが機能としては神話や宗教説話に近いとし、小松左京が神話の発生を論じた文章を引いたうえで次のように述べている。

 「かかる意味において小松SFは「現代の神話」と位置づけられるのです。」

 同感である。小松作品を読み返したくなった。