最近10年のSF傑作選を読み、年齢を感じた2020年09月29日

『2010年代SF傑作選(1)(2)』(大森望・伴名練編/ハヤカワ文庫)
 今年2月に刊行された次のSFアンソロジーを読んだ。

 『2010年代SF傑作選(1)(2)』(大森望・伴名練編/ハヤカワ文庫)

 2010年から2019年までの10年間に発表された日本のSF短編の傑作選である。この2冊に20人の作家の20編が収録されている。半世紀前はSFファンだった私には半数以上が未知の作家である。

 このアンソロジーを読もうと思ったきっかけは、高山羽根子の芥川賞受賞である。2年前に 『年刊日本SF傑作選(2016年分)』(創元SF文庫) というアンソロジーを読み、高山羽根子の『太陽の側の島』が面白いと思った。その作家が芥川賞をとったので受賞作『首里の馬』を読んだ。そこそこに面白いが、私には『太陽の側の島』の方が好みで、この作家のデビュー作も読みたくなった。

 高山羽根子のデビュー作『うどん キツネつき』は『2010年代SF傑作選(2)』に収録されている。(2)だけ購入するのも中途半端なので(1)も購入し、この機会に、私には馴染みの薄い近頃の日本SFを眺めてみようという気になった。

 選者たちが最近10年のベストと選出した20編を読み終えて、自分の年齢を感じた。どれもつまらなくはないが、「これは傑作だ!」と感嘆できる作品はなく、若い頃に読んだ昔のSF(小松左京、筒井康隆、星新一などなど)の方がときめいたと思った。私の老いた感性が時代から乖離しつつあるのだと思う。

 高山羽根子の『うどん キツネつき』は読みやすく、印象鮮明な場面も多いが、全体が曖昧で物足りない。20編のなかで面白いと思ったのは『鮮やかな賭け』(神林長平)、『文字渦』(円城塔)、『海の指』(飛浩隆)、『スペース金融道』(宮内悠介)、『環刑錮』(西島伝法)、『従卒トム』(藤井大洋)である。どれも、半世紀前には思いもよらなかったSF小説であり、この分野が進化あるいは変化しているのは確かだ。

 読み終えた20編は異世界、異生物、奇想のオンパレードで、タイムマシンやタイムスリップを扱った「時間モノ」は一編もない。オールドSFファンにとって「時間モノ」こそがSFの醍醐味だったが、時間移動が出てくる映画やドラマが数多く制作され、もはやありふれた仕掛けになってしまったようだ。この分野のSFは書きつくされたのだろうか。

 脳や意識を扱った作品が多いのもこのアンソロジーの特徴だと思える。昔から脳や意識を扱ったSFはあるが、最近の作品の方が深化し多様化している。脳や意識に関する科学の進歩の反映だろう。

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