池谷裕二氏のデビュー作『記憶力を強くする』は刺激的な本2020年01月11日

 『記憶力を強くする:最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』(池谷裕二/ブルーバックス/講談社)
 先日(2020年1月8日)の朝日新聞夕刊の「編集者がつくった本」というコラムで次の本を取り上げていた。

 『記憶力を強くする:最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』(池谷裕二/ブルーバックス/講談社)

 このコラムは書籍編集者が自分が手掛けた思い出の本を語るシリーズである。当然ながら紹介されるのは昔の本だ。今回の執筆者は講談社の篠木和久氏で、『記憶力を強くする』の刊行は2001年1月、池谷裕二氏のデビュー作である。当時、著者は30歳の助手だった。

 篠木氏は20年前に若き脳研究者に本書執筆を依頼した経緯を語り、本書が20万部を超えるベストセラーになったと述べている。私は数年前に本書を購入して未読のまま積んでいた。この本がそんなベストセラーとは知らなかった。

 一昨年、『脳の意識 機械の意識:脳神経科学の挑戦』(渡辺正峰 /中公新書)を面白く読んだ際に、脳科学への興味がわいて池谷裕二氏の『進化しすぎた脳』(ブルーバックス)、『単純な脳、複雑な「私」』(ブルーバックス)、『受験脳の作り方』(新潮文庫)などを読んだ。しかし『記憶力を強くする』には手が伸びなかった。タイトルがハウツー本っぽいので既読本と似た内容だろうと思ったのだ。

 朝日新聞夕刊のコラムに触発されて『記憶力を強くする』を読み、その面白さに引き込まれ、自身の不明を恥じた。池谷裕二氏の本を読むなら真っ先に本書を読むべきであった。

 『記憶力を強くする』は脳科学の最先端の研究状況(当時の)を現場の研究者が紹介した本で、記憶のしくみが脳科学でどこまで解明されているかを解説している。非常に興味深いテーマであり、刺激的な本である。終盤では脳科学にとって「意識」が未踏の研究分野であることにも触れている。

 『記憶力を強くする』の読後感は、渡辺正峰氏のデビュー作『脳の意識 機械の意識』の読後感に似ている。『脳の意識 機械の意識』を読む前に池谷裕二の『記憶力を強くする』を読んでおけば、もっと理解が深まっただろうと悔やまれる。