狐忠信の宙乗りを観た2016年06月21日

 先日、歌舞伎座で市川猿之助の宙乗りを観た。新築の歌舞伎座では初の宙乗りだそうだ。

 思いおこせば数十年前、私が歌舞伎を観たいと思った動機には「猿之助の宙乗りを観たい」という願望がかなり大きなウエイトを占めていた。新聞や雑誌で猿之助(先代)が宙乗りという趣向を復活させたという記事を読み、写真やテレビでそのシーンを眺め、ぜひ実物を観たいと思った。

 だが、当時は金銭的にも時間的にも歌舞伎を鑑賞する余裕はなかった。それでも、新橋演舞場でのスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』には何とか足を運ぶことができ、猿之助(先代)の宙乗りを鑑賞して満足を得た。

 とは言っても、やはり宙乗りと言えば『義経千本桜』の狐忠信である。古いビデオで猿之助(先代)の舞台を観たことはあるが、実物は観ていない。私が実際の舞台で観た『義経千本桜』の役者は猿之助ではなかったので、宙乗りはなかった。

 今回の歌舞伎座で『義経千本桜』には市川猿之助が出演し宙乗りをやると知り、第三部のチケットを手配した。座席は2階下手の桟敷席にした。客席の左右にある桟敷席は舞台に対する角度が90度で、とても見やすい席とは思えない。座席の正面に見えるのは反対側の桟敷席である。あの席は、舞台を眺めるというよりは観客を眺める(あるいは観客から眺められる)席だという説を聞いたことがある。あえてあんな席を選ぼうとは思わない。

 しかし、今回は桟敷席を選択した。宙乗りを間近に観ることができると考えたからだ。花道に近い下手2階の桟敷席の最前列で、花道は何とか見えるかな思っていたが、実際に座ってみると、少し身を乗り出さなければ花道は見えない。しかし、2階桟敷席からの舞台の眺めは予想したほどに悪くはなく、普通に芝居を鑑賞できた。

 そして、やはり宙乗りの鑑賞には絶好の場所だと感じた。宙を舞って昇って行く猿之助の仕草や表情が間近に見えるし、1階の観客席全体を俯瞰しながら宙乗りを鑑賞できるのが素晴らしい。自分が宙を舞っている気分にもなれる。

 最近の映画のSFXはCGの活用によって従来は考えられなかった迫力ある驚異のシーンを見せてくれる。だが、驚異のシーンが増えすぎるとやや食傷気味になってくる。それに比べて、江戸時代から伝わる舞台の素朴なSFXには独特の味わいがある。そう感じるのは、私が年を取ったからだろうか。

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