キリスト教の蛮行を描いた『アレクサンドリア』は見ごたえがある2011年04月03日

 ローマ帝国末期のエジプトの女性科学者ヒュパティアを描いた『アレクサンドリア』(主演レイチェル・ワイズ、監督アレハンドロ・アメナーバル)は見ごたえのある映画だった。

 この映画を見るまで、ヒュパティアという女性のことは知らなかった。美しくて聡明な数学者・天文学者だったそうだ。キリスト教徒に虐殺され、その著作物はほとんど失われている。その名があまり一般的でないのは、著作が残っていないせいかもしれない。

 古代都市アレクサンドリアを描いたこの映画は、ハリウッド映画を彷彿させるようなスペクタクルだが、実はスペイン映画だ(セリフは英語)。パンフには、ヨーロッパ映画史上最大級の製作費をかけた、とある。確かに画面は壮大で迫力がある。古代の科学者の小道具なども魅力的だ。

 しかし、そんなことより、私が最も驚いたのは、この映画がキリスト教を相対化し、キリスト教徒の蛮行を明確に描いている点だ。キリスト教がメインの国で、よくこんな映画が作れたものだと感心した。こういう映画こそ、塩野七生の『ローマ人の物語』が広く読まれている日本で作られるべき映画ではなかったのか、という気もしてくる。日本で古代ローマを舞台にした映画を作るのは無理だと、わかってはいるが。

 舞台はアレクサンドリア図書館などで知られる古代エジプトの都市アレクサンドリア、時代は4世紀末から5世紀(ヒュパティアの虐殺は415年)。当時のエジプトはローマの属国で、すでにローマ皇帝はキリスト教に改宗している。ローマ世界が多神教から一神教へと移行していく時代だ。

 アレクサンドリアの図書館長テオン(ヒュパティアの父)たちが、キリスト教徒の予想外の蔓延に驚くシーンには、歴史変動のリアルが感じられる。やがて、ローマ皇帝の命によって、テオンやヒュパティアは図書館を追われる。図書館を占拠したキリスト教徒たちは万巻の書物を火に投じる。異教徒の書物だからだ。

 そして、アレクサンドリアはキリスト教支配の都市になっていく。多くの人々がキリスト教に改宗する。そうでなければ要職につけないからだ。また、異教徒狩りも始まる。

 面従腹背の教徒や素朴な教徒たちは狂信の支配者に逆らうことはできない。狂信者の世界では、目覚めた理性の人であるヒュパティアは迫害されざるを得ない。焚書と狂信のこの世界は、まるでナチス支配のドイツそのものだ。狂信の世界の恐ろしさが伝わってくる映画だ。

 この映画のどこまでが史実に基づいていて、どこからがフィクションなのか、気になるところだ。調べてみると、アレクサンドリア図書館がキリスト教徒によって壊滅的に破壊されたことや、ヒュパティアがキリスト教の司教キュリロスの部下の修道士たちによって虐殺されたことは確かな事実のようだ。

 人類は愚かな狂信とその克服を古代から現代まで何度も繰り返してきている。未来にも繰り返すことになるのだろうか。宇宙からの俯瞰シーンが何度か現れるこの映画は、そんなメッセージも秘めている。

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【後日追記リンク】
『ヒュパティア』

コメント

_ えいまうま42 ― 2011年04月12日 17時57分

こんにちは, お久しぶりです。

まずはお元気なようでなによりです。 まま様もお元気でしょうか。

「アレキサンドリア」面白そうですね、最後の地上の 俯瞰 したシーンが印象に残りました。
確か神殿の有った場所、(神殿遺跡を守る兵士にチップ 10ドルを5ドルに値切った)

塩野さんの 「ローマの物語」、 ままさんに配給してもらう、?。其れとも製作助監督を
お願いいたしましょうか、その時には古代戦車のミニチャ 一台位提供いたします。

**、 ああー なんと懐かしき地名か,  熱き地に  我を忘れて  皇帝に

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