「温暖化懐疑論」と出版2008年02月14日

 「地球は本当に温暖化しているのか?」「温暖化の主因は人為起源のCO2なのか?」「温暖化は悪いことなのか?」などの温暖化懐疑論は、かなり以前から存在する。私自身、現状では温暖化懐疑論に近い。近年の地球温暖化論にファッショ&ファッション的なうさん臭さを感じるからだ。
 もっとも、この議論は思想信条や主義主張に基づくのではなく、科学的な事実認識に基づいて考えるべきものなので、知見の深化によって考え方が変わる可能性はある。

 温暖化の記事はあふれているが、最近になって温暖化懐疑論を目にすることも増えてきた。文藝春秋は『暴走する「地球温暖化」論―洗脳・煽動・歪曲の数々』(2007/12)を出版し、宝島社は『別冊宝島 温暖化を食いものにする人々 地球温暖化という“都合のよい真実”』(2008/2/7)を出版した。また、『週刊朝日』は2回にわたって温暖化懐疑論を紹介している(2008/1/18号、2008/2/15号)。

 『暴走する「地球温暖化」論』の約1カ月前に文藝春秋が出版した『日本の論点2008』(2007/11/8)では、CO2による地球温暖化を前提に温暖化阻止を訴える「異常気象と温暖化の関係とは」(木本昌秀)という記事が載っていた。「データファイル」という解説記事も、温暖化懐疑論を紹介しつつ、それを否定する内容になっていた。『日本の論点』は、ひとつの論点について複数の筆者の見解を並列的に掲載している項目も多いのだが、地球温暖化問題に関する懐疑論の扱いは泡沫候補なみだった。ところが、1カ月後には温暖化懐疑論の本を出版した。

 宝島社は1年前には、地球温暖化の危機への早急な対応実践を促す内容の『別冊宝島 図解地球の真実―ひと目でわかる温暖化の今と未来 世界の、とても不都合なこと』を出版していた。ところが、最近になって温暖化懐疑論とも取れる『別冊宝島 温暖化を食いものにする人々』を出版した。別冊宝島の最新刊が面白いのは、1年前の本の「第二弾」としている点だ。筆者もほぼ共通だ。この本、大半は温暖化懐疑論の紹介で、「まえがき」には、前回の本の第二弾ではあるが真逆である旨が書かれている。実は、この別冊宝島には、最後の章にドンデン反しがある。温暖化の理論はすべて仮説だが、やはり地球温暖化は加速していて、このままでは大変なことになりそうだ……というようなことでまとめている。不統一な内容のようにも見えるが、地球温暖化問題は何とでも言えることが多く、このような編集も可能なのだろう。

 『週刊朝日』が紹介している温暖化懐疑論は、「ニッポンの争点」という記事(2008/1/18号)の中の丸山茂徳・東工大教授の「地球温暖化の議論も、その原因が二酸化炭素だとされている論調も間違っています」というコメントと、「日本を覆う、エコ・健康・安全“ファシズム”を疑え!」という記事(2008/2/15号)の中の伊藤公紀・横国大教授の「『不都合な真実』は間違いだらけ」というコメントだ。どちらのコメントも、温暖化論との両論併記ではない。『週刊朝日』が温暖化懐疑論だけを紹介していても、もちろん朝日新聞本紙は地球温暖化の危機を訴え続けている。

 温暖化懐疑論の本が書店の店頭に並んでいるのは、新たな知見によって温暖化懐疑論が注目され始めた……ということではなさそうだし、一部の出版社や新聞社が宗旨変えをしたわけでもなさそうだ。

 少し以前までは、地球温暖化は世の中の多くの人々の関心事ではなかった。しかし、京都議定書などの政治問題とあいまって多くのメディアが地球温暖化を取り上げるようになった。予見される危機を報じて警鐘を鳴らすのはメディアの使命である。当然の帰結として地球温暖化の危機を喚起する記事が氾濫することになった。
 しかし、世の中の論調が一色に染まりそうになると、それに疑念を呈するメディアが出てくるのも常道だ。それは、メディアの動物的本能であり、営業的本能でもある。世の中がいっせいに「地球温暖化阻止のためのCO2削減」を合唱し始めると、そのこと自体に疑念と危機を感じる人や、逆の立場から警鐘を鳴らす人も出てくる。
 いい意味でも悪い意味でも、メディアは危機意識を煽り、事件を作ろうとする。地球温暖化の危機を訴えながら、同時に温暖化懐疑論をもちあげるのは不思議なことではない。今は「温暖化懐疑論」の方が売れるフェーズなのかもしれない。

 とは言っても、いつまでも両論併記で進んでいける課題ではない。地球温暖化の議論の根っこには、現在のサイエンスがまだ温暖化や寒冷化の全体像を明解に説明できる水準にないということがある。現状の知見の評価が論者によって分かれている。サイエンスとしての定説が確立していないとは言っても、サイエンス以外の政治や社会の課題に転嫁せざるを得ない点も多いので、課題が分かりにくくなっている。
 もっとも、世の中のほとんどの課題は困難であり、最適解で効率的に解決できた課題などはなかったのだと思える。

 温暖化懐疑論についてはあらためて整理してみたい。

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