アガサ・クリスティーと中島敦をまとめ読みしたわけ2025年03月16日

『メソポタミヤの殺人』(アガサ・クリスティー/田村義進訳/ハヤカワ文庫)、文字禍・牛人』(中島敦/角川文庫)
 次の2冊の小説をたて続けに読んだ。

 『メソポタミヤの殺人』(アガサ・クリスティー/田村義進訳/ハヤカワ文庫)
 『文字禍・牛人』(中島敦/角川文庫)

 アガサ・クリスティーと中島敦、かなり異質の取り合わせだが関連がある。先日読んだ『アッシリア全史』が『メソポタミヤの殺人』と『文字禍』に触れていたのだ。二つの小説の共通項はアッシリアである。私はどちらも読んでいないので、ネット書店で入手して読んだ。ゴチャゴチャした歴史で疲れた頭をミステリー小説でほぐしたくなったのである。

 『アッシリア全史』では、メソポタミアの遺跡発掘に関連して、考古学者として発掘に携わると同時に英国の諜報活動をしていた「アラビアのロレンス」に触れ、「女王」と呼ばれた二人の英国人女性に言及している。ひとりはガートルード・ベルである。女性版ロレンスと言われたりするが、ロレンスより20歳年長だ。「砂漠の女王」「イラク建国の母」と呼ばれる考古学者・紀行作家・英国特使である。私は8年前、彼女を描いた映画『アラビアの女王』を観た。

 もうひとりの女王がアガサ・クリスティーである。クリスティの再婚相手は14歳年下の考古学者のマックス・マロワンで、メソポタミアの遺跡発掘に参加していた。カルフでの発掘にはクリスティも同行し、発掘作業を手伝いながら『メソポタミヤの殺人』を執筆したそうだ。

 そんな事情を知ったうえで『メソポタミヤの殺人』を読んだ。遺跡発掘隊を舞台にしたミステリーである。遺跡名は架空のようだが、実際の地名もいくつか出てくるので、およその場所は見当がつく。遺跡発掘隊の話を読みながら、実体験に基づいたであろう描写を楽しんだ。イラクに思いをはせながら発掘現場を疑似体験できた。ただし、ミステリーとしてはやや強引な無理筋に思えた。

 中島敦の『文字禍』はアッシリアを舞台にした小説である。33歳で夭折したこの作家の『山月記』は教科書で読んだ。『李陵』など中国を舞台にした短篇をいくつ読んだ記憶はあるが、アッシリアの話は読んでいない。入手した角川文庫の『文字禍・牛人』は、6つの短篇を収録していた。『狐憑』『木乃伊』『文字禍』『牛人』『斗南先生』『虎狩』である。

 『文字禍』はアッシュルバニパル王の時代の老学者の話である。19世紀にニネヴェ遺跡で発掘された「アッシュルバニバル」の図書館が登場する。楔形文字を刻んだ粘土板を収集した図書館を、中島敦は「書物は瓦であり、図書館は瀬戸物屋の倉庫に似ていた」と表現している。文字の発明によって人間が失ったものを考察した端正な短篇である。面白かった。

 『狐憑』はスキタイ人の話、『木乃伊』の舞台は古代エジプトである。中国のイメージが強い中島敦の視野の広さと教養の深さに驚いた。『牛人』は中国の奇譚、『斗南先生』と『虎狩』は私小説風だが、私にとっては異世界の話だ。久々に漢字を多用した中島敦の短篇を読み、異境感に浸った。

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