中世を舞台にした『バウドリーノ』は奇怪な小説2024年12月19日

『バウドリーノ(上)(下)』(ウンベルト・エーコ/堤康徳訳/岩波文庫)
 あの『薔薇の名前』のウンベルト・エーコに十字軍を扱った小説があると知り、読みたくなった。ビザンツ史や神聖ローマ皇帝フェデリコ2世は私の関心領域なので、どんな話か興味がわいたのである。

 『バウドリーノ(上)(下)』(ウンベルト・エーコ/堤康徳訳/岩波文庫)

 この小説はさほど衒学的ではなく難解でもない。エンタメに近いと思う。読み始めてしばらくは、サラサラと読了できそうな気がした。だが、思った以上に時間を要した。頭がゴチャゴチャすることも多かった。10年前の私なら途中で投げていたと思う。西欧中世史やビザンツ史に関する多少の知識がないと、この小説の世界には入り込みにくい。私はこの10年で多少は歴史の本に親しんできたので、何とか読み進めることができた。

 上巻のカバー裏には次の惹句がある。

 「時は中世、十字軍の時代――。神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサに気に入られて養子となった農民の子バウドリーノが語りだす数奇な生涯とは……。言語の才に恵まれ、語る嘘がことごとく真実となってしまうバウドリーノの、西洋と東洋をまたにかけた大冒険がはじまる。」

 確かにこの惹句通りの内容だが、歴史小説や冒険小説とは呼び難い。面妖で奇怪な小説である。前半と後半で雰囲気が異なる。前半は、中世の史実をベースに想像力をふくらませたフィクションの趣だが、後半になるとプリニウスが描くような怪人が登場し、妖怪小説になる。ゲゲゲの鬼太郎のような展開に面食らった。終盤はシャーロック・ホームズである。波長が合えば楽しめるが、波長がずれると「何じゃこれは」という気分になる。私は、波長を合わせる努力をしながら読み進めた。

 特異な才をもつ農民の子バウドリーノは、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世(1122年~1190年)に拾われ、側近として皇帝が没するまで仕える。その後、第4回十字軍がコンスタンティノープルを攻撃したとき(1204年)、バウドリーノはビザンツの歴史家ニケタス(実在の人物)を救出する。

 この小説の大部分は、バウドリーノがニケタスに語る自身の半生の物語である。バウドリーノは、自分には嘘を語る才があると述べている。だから、彼が語る物語(この小説の大部分)のどこまでが事実かが不明という趣向になっている。

 虚実の混じった物語ではあるが、私が歴史書で興味を抱いた人物への言及に出会うとうれしくなった。アレクサンドリアの女性学者ヒュパティアが出てきたのには驚いた。彼女は古代末期の人だから、登場するのはその末裔のヒュパティア一族である。キリスト教を批判するヒュパティアの神談義も興味深い。理解できたわけではないが…。

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