封建制を巡る多様な考察を紹介する『封建制の文明史観』2024年06月25日

『封建制の文明史観:近代化をもたらした歴史の遺産』(今谷明/PHP新書)
 梅棹忠夫の『文明の生態史観』に言及した歴史書があると知り、入手して読んだ。5年前に出た新書である。

 『封建制の文明史観:近代化をもたらした歴史の遺産』(今谷明/PHP新書)

 著者は日本中世政治史専攻の歴史研究者。本書は「封建制」を巡る古今東西のさまざまな見解の変遷を紹介している。学者の見解だけでなく、島崎藤村や大隈重信の言説にもかなりのページを割き、エピソードも多く盛り込んでいる。封建制について興味深く勉強できた。封建制が意味する内容が時代や論者によって揺らいでいることもわかった。面白い歴史書である。

 第1章では「モンゴルの世界征服と封建制」について論じている。モンゴル軍が敗れた地域が世界に三つあるという。エジプトのマムルーク朝と日本とドイツ(神聖ローマ帝国)である。この三つは、モンゴルに攻められた当時、封建制のさなかにあり、強靭な軍事力でモンゴルを跳ね返した。モンゴルに征服されたのは「東洋的専制主義」と呼ばれる官僚制の強い地域だった。

 エジプトがモンゴルを破ったのは承知している。元寇については「神風」説は怪しく(『蒙古襲来と神風』服部英雄)、鎌倉武士が頑張ったのだろうと思う。ドイツに関しては、バトゥのモンゴルが勝っていたがオゴタイ・ハン死去の知らせで引き揚げたと思っていた。著者によれば、その説はつじつまが合わず、ドイツの反撃にあって撤退したそうだ。初めて聞く話だ。驚いた。

 いずれにしても、封建制の歴史的な機能を評価しているのは『文明の生態史観』に共通する。騎馬民族の影響を受けない東西の辺境に位置する西欧と日本が、軍事封建制を経ていち早く近代化した、というのが梅棹説である。

 今谷氏は、1957年の「文明の生態史観序説」の登場を「その脚光ぶりは、46年の丸山真男「超国家主義の論理と心理」のデビューと好一対であろう」とし、反発を含めた反響を紹介している。そして、次のように述べている。

 「とにもかくにも、梅棹学説は、戦後日本に蔓延していた封建制害悪説に風穴をあけ、封建制再評価のさきがけとなったものであるが、それは同時に、明治以降の近代日本にあって、同じ議論がかつておこなわれた、その繰り返し、先祖返りにすぎない、とも言い得るものである。」

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