『ホームズとワトソン:友情の研究』は哀感漂う架空伝記 ― 2024年05月15日
先月、シャーロック・ホームズ全編を読み返したのを機に、ホームズの架空伝記『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』(グールド)を読んだ。ホームズの伝記は他にもいくつかあり、もう1冊ぐらい読んでおこうと思い、次の伝記を読んだ。
『ホームズとワトソン:友情の研究』(ジューン・トムスン/押田由起訳/創元推理文庫)
本書の著者は英国の女流推理作家で、ワトソンが語らなかったホームズの事件を題材にした物語を多く書いているそうだ。本書は、ホームズとワトソンとの関わりに焦点を当てた架空伝記である。
世界で一番有名なフィクションの人物はシャーロック・ホームズだと聞いたことがある。だとすれば、二番目はワトソンだろう。ワトソンという絶妙な相棒&語り手によってホームズは魅力的な存在になった。ホームズ全編を読み返しているとき、ホームズ物の面白さは、謎解きや冒険ではなくホームズとワトソンの掛け合いにあると感じた。
グールドの架空伝記は奔放で破天荒だったが、本書はかなり抑制的・禁欲的である。あくまで聖典60編を一次史料とし、聖典から推測できない事項の断定を避けている。グールドの伝記より本書の方が面白い。ホームズ像に陰影があり、哀感さえ漂う。
著者はホームズは躁鬱病だとしている。それは大空白時代(1891年の『最後の事件』から1894年の『空家の冒険』まで)の後も継続している。グールドは大空白時代以降、ホームズはコカイン依存を克服したとしているが、本書では克服できていない。
『最後の事件』においてホームズが失踪を決意した動機の追究が面白い。『空家の冒険』でホームズがワトソンに語った動機に無理があるのは確かだ。著者は、躁鬱病だったホームズが抱いた「自分自身から逃げ出して、まったく新しい人格をつくりだしたいという無意識の衝動」を指摘している。
本書の肝はホームズとワトソンの関係の分析である。ホームズのワトソンへの支配欲、それを受け容れるワトソンという相互依存的な「友情」という指摘は説得的だ。そんな関係だから、ワトソンの結婚に冷淡なホームズに哀感が漂う。
グールドはワトソン3回結婚説だが、本書は2回結婚説である。『四つの署名』のメアリ・モースタンが1回目で、彼女は大空白時代に亡くなる。2回目の相手は、何と『ソア橋の怪事件』のグレース・ダンバーだとしている。聖典のみを手掛かりにした緻密な推論に感心した。
『ホームズとワトソン:友情の研究』(ジューン・トムスン/押田由起訳/創元推理文庫)
本書の著者は英国の女流推理作家で、ワトソンが語らなかったホームズの事件を題材にした物語を多く書いているそうだ。本書は、ホームズとワトソンとの関わりに焦点を当てた架空伝記である。
世界で一番有名なフィクションの人物はシャーロック・ホームズだと聞いたことがある。だとすれば、二番目はワトソンだろう。ワトソンという絶妙な相棒&語り手によってホームズは魅力的な存在になった。ホームズ全編を読み返しているとき、ホームズ物の面白さは、謎解きや冒険ではなくホームズとワトソンの掛け合いにあると感じた。
グールドの架空伝記は奔放で破天荒だったが、本書はかなり抑制的・禁欲的である。あくまで聖典60編を一次史料とし、聖典から推測できない事項の断定を避けている。グールドの伝記より本書の方が面白い。ホームズ像に陰影があり、哀感さえ漂う。
著者はホームズは躁鬱病だとしている。それは大空白時代(1891年の『最後の事件』から1894年の『空家の冒険』まで)の後も継続している。グールドは大空白時代以降、ホームズはコカイン依存を克服したとしているが、本書では克服できていない。
『最後の事件』においてホームズが失踪を決意した動機の追究が面白い。『空家の冒険』でホームズがワトソンに語った動機に無理があるのは確かだ。著者は、躁鬱病だったホームズが抱いた「自分自身から逃げ出して、まったく新しい人格をつくりだしたいという無意識の衝動」を指摘している。
本書の肝はホームズとワトソンの関係の分析である。ホームズのワトソンへの支配欲、それを受け容れるワトソンという相互依存的な「友情」という指摘は説得的だ。そんな関係だから、ワトソンの結婚に冷淡なホームズに哀感が漂う。
グールドはワトソン3回結婚説だが、本書は2回結婚説である。『四つの署名』のメアリ・モースタンが1回目で、彼女は大空白時代に亡くなる。2回目の相手は、何と『ソア橋の怪事件』のグレース・ダンバーだとしている。聖典のみを手掛かりにした緻密な推論に感心した。

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