『安倍晋三の正体』を読んで暗澹たる思い2023年10月04日

『安倍晋三の正体』(適菜収/祥伝社新書)
 『安倍晋三の正体』(適菜収/祥伝社新書)

 保守の立場から安倍晋三を反日のエセ保守として徹底的に批判した新書を読んだ。この著者の本を読むのは初めてだ。著者紹介によれば、ニーチェ、小林秀雄、三島由紀夫、徒然草などに関する著書がある「作家」だそうだ。

 安倍晋三については、かなり以前に読んだ『安倍三代』 (青木理)が印象に残っている。「悲しいまでに凡庸で、何の変哲もない人間」「空虚で空疎な人間」と説得的に書いていた。本書が描く安倍晋三像も青木氏に近い。読売新聞記者の聞き書き『安倍晋三回顧録』を次のように評している。

 「『回顧録』から見えるのは、安倍という男の絶望的な幼さ、自己中心的な思考、地頭の悪さだ。内容も真偽不明で検証不可能な話の数々、寒々しい自慢話、酔っ払いのようなクダ、責任の押し付け、卑劣な言い訳のオンパレード。」

 私は『回顧録』を読んでいない。読むまでもないと思っている。おそらく著者の指摘通りだろう。「外交の安倍」の実体が悲惨な失敗だったとの著者の指摘にも同感する。

 解明すべきは、そんな安倍政権がなぜ長期にわたって続いたか、なぜ依然として安倍晋三を持ち上げる人間が多いか、である。愛想はいいが無知で軽薄なオボッチャマ政治家という人物が問題なのではなく、そんな人物を選んだ日本人の思考と行動、つまりは日本の社会の姿を省察せねばならない。難問だと思うが。

 著者が己の立場としている「保守」の説明はやや難解だ。自死した西部邁に似ているかもしれない。「人間理性を懐疑する」「啓蒙主義を疑う」「進歩史観に与しない」「理想を提示しない」「漸進主義」――それが保守の立場だそうだ。そんな「本当の保守」の人は、やはり少数派だろうと思う。

 「保守」と「革新」、「右翼」と「左翼」、「ナショナリズム」と「グローバリズム」などの区分け基準は人によってさまざまだ。そんな分類の有効性も疑わしい。レッテルにさほどの意味があるとは思えない。人間の集団の複雑さや単純さをどう捉えればいいのか、私にはよくわからない。わからなくても時間は流れる。思考停止することなく、考えるしかない。先送りできない判断や選択もある。

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