『終わりよければすべてよし』は面白かった2023年10月22日

 新国立劇場中劇場でシェイクスピアの『終わりよければすべてよし』(翻訳:小田島雄志、演出:鵜山仁、出演:岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、亀田佳明、他)を観た。同じ役者で『尺には尺を』と交互上演するという面白い企画で、来週は『尺には尺を』を観る予定だ。戯曲は今月初めに読んだ。

 戯曲の感想でも書いたが、この二つの芝居にはベッド・トリック(身替り花嫁)という共通の仕掛けがある。それがこの二つを交互上演する理由かもしれない。

 男が女を誘惑し、ベッドを共にする。そのとき、女は別人(男との結婚を望んでいる女)にすり替わっているが、男はすり替わりに気づかず女とベッドを共にする――それがベッド・トリックである。男はベッドを共にした女と結婚することになる。ヘンな話だと思う。当時の民話などに頻出するそうだ。

 この芝居に限らないが、戯曲を読んだときに抱いた違和感は実際に舞台を観ると少し減少する。舞台上で展開する「もう一つの世界」に引きずり込まれからであり、役者たちの演技力に説得させられるということでもある。

 本当にハッピーエンドか釈然としないこの芝居、男たちは滑稽で女たちは勁く、十分に堪能できた。

 哀れな悪役ぺーローレス(亀田佳明)が面白い。冒頭でのヘレン(中嶋朋子)との処女喪失に関する際どいやりとりに生彩がある。主人の公爵に取り入って自分を大きく見せようとする軽薄で無節操な家臣だが、終盤で化けの皮が剝がされる。そのとき、ぺーローレスが自分自身に語りかける次の台詞が印象に残った。

 「剣よ、錆びよ、赤い頬よ、冷めよ、ぺーローレスよ、恥に安住して生きよ、ばかにされたらばかに徹して栄えよ。」

 この芝居にはエピローグがある。最後の台詞を話し終えたフランス王(岡本健一)が、王冠を外し「芝居は終りましたいま、王も乞食となりはてます、お気に召したと拍手してくださるよう、乞い願います(…)」と観客に語りかける。この部分も戯曲に書かれているから芝居の一部なのだが、シェイクスピアの時代には一般的な趣向だったのだろうか。強制的に芝居を相対化させて「終わりよければすべてよし」と強弁する巧妙な仕掛けにも思え、面白かった。