野村萬斎演出『ハムレット』を観た ― 2023年03月11日
世田谷パブリックシアターで『ハムレット』(翻訳:河合祥一郎、構成・演出:野村萬斎、出演:野村裕基、藤間爽子、若村麻由美、村田雄浩、河原崎國太郎、野村萬斎、他)を観た。昨年2月、同じ劇場で観た「戯曲リーディング」をベースにした本番上演である。
昨年、「戯曲リーディング」を観た直後に河合祥一郎氏の『謎解き「ハムレット」』(ちくま学芸文庫)と『新訳 ハムレット』(角川文庫)を読んだ。20年前に出た『新訳 ハムレット』は、ハムレットを演じることになった野村萬斎氏が河合氏に依頼した新訳である。台詞のリズムや響きにこだわった「萬斎監訳」とも言える翻訳だそうだ。
萬斎氏が河合氏に新訳を依頼する契機になったのが『謎解き「ハムレット」』で、その巻末解説で、役者・萬斎氏は次のように述べている。
「いつか、同じ河合氏の訳で再度『ハムレット』をとりあげ、今度は私自身が演出を手掛けてみたいと思っている。その際には、世界に誇ることのできる日本の伝統芸能のバリエーションの豊かさを利用して、亡霊は能楽師、墓掘りは漫才師、劇中劇の場面は人形浄瑠璃など、オールジャパンキャストの『ハムレット』に挑戦したい」
2016年の文章だが、その思いが実現したのが今回の上演のようだ。ハムレット役は萬斎氏ではなく息子の野村裕基氏、萬斎氏は亡霊とクローディアスを演じている。亡霊は能楽師でなく狂言師になったが雰囲気は能だ。劇中劇の座長は歌舞伎・前進座の河原崎國太郎氏、劇中劇の一座は大いに歌舞いている。
舞台装置はシンプルだ。西欧の王宮風ではなく象徴的な空間になっている。登場人物の衣装はシンプルではなく艶やかだが、西欧と東洋が混合したような架空の王国の衣装に見える。音楽や効果音は和風だ。そんな取り合わせが不自然でないのが舞台の面白さであり、シェイクスピアという古典の深さでもある。
今回の上演時間は3時間30分(休憩15分を含む)、『新訳 ハムレット』をベースに多少アレンジしている。リアル空間とは別の時空で展開されているように思えるハムレットの長科白が、卑猥な表現やダジャレに満ちているのが面白い。上演のたびにゆらぐのが当然の芝居の原初を感じる。
冒頭の台詞「誰だ」を強調する演出や、冒頭の「生きている、死んでいる」がラストの「死んでいる、生きている」に変わるのは不条理劇のようにも見える。終幕でハムレットの遺骸が彼方に去っていく姿には屋台崩しのアングラ劇を連想した。
観劇前に『謎解き「ハムレット」』をパラパラ再読していたので、「ヘラクレス」「なるようになれ」などの言葉が印象に残ったが、謎が解けた気がしたわけでもない。あらためて、多様な読み方ができる芝居だと思えた。
昨年、「戯曲リーディング」を観た直後に河合祥一郎氏の『謎解き「ハムレット」』(ちくま学芸文庫)と『新訳 ハムレット』(角川文庫)を読んだ。20年前に出た『新訳 ハムレット』は、ハムレットを演じることになった野村萬斎氏が河合氏に依頼した新訳である。台詞のリズムや響きにこだわった「萬斎監訳」とも言える翻訳だそうだ。
萬斎氏が河合氏に新訳を依頼する契機になったのが『謎解き「ハムレット」』で、その巻末解説で、役者・萬斎氏は次のように述べている。
「いつか、同じ河合氏の訳で再度『ハムレット』をとりあげ、今度は私自身が演出を手掛けてみたいと思っている。その際には、世界に誇ることのできる日本の伝統芸能のバリエーションの豊かさを利用して、亡霊は能楽師、墓掘りは漫才師、劇中劇の場面は人形浄瑠璃など、オールジャパンキャストの『ハムレット』に挑戦したい」
2016年の文章だが、その思いが実現したのが今回の上演のようだ。ハムレット役は萬斎氏ではなく息子の野村裕基氏、萬斎氏は亡霊とクローディアスを演じている。亡霊は能楽師でなく狂言師になったが雰囲気は能だ。劇中劇の座長は歌舞伎・前進座の河原崎國太郎氏、劇中劇の一座は大いに歌舞いている。
舞台装置はシンプルだ。西欧の王宮風ではなく象徴的な空間になっている。登場人物の衣装はシンプルではなく艶やかだが、西欧と東洋が混合したような架空の王国の衣装に見える。音楽や効果音は和風だ。そんな取り合わせが不自然でないのが舞台の面白さであり、シェイクスピアという古典の深さでもある。
今回の上演時間は3時間30分(休憩15分を含む)、『新訳 ハムレット』をベースに多少アレンジしている。リアル空間とは別の時空で展開されているように思えるハムレットの長科白が、卑猥な表現やダジャレに満ちているのが面白い。上演のたびにゆらぐのが当然の芝居の原初を感じる。
冒頭の台詞「誰だ」を強調する演出や、冒頭の「生きている、死んでいる」がラストの「死んでいる、生きている」に変わるのは不条理劇のようにも見える。終幕でハムレットの遺骸が彼方に去っていく姿には屋台崩しのアングラ劇を連想した。
観劇前に『謎解き「ハムレット」』をパラパラ再読していたので、「ヘラクレス」「なるようになれ」などの言葉が印象に残ったが、謎が解けた気がしたわけでもない。あらためて、多様な読み方ができる芝居だと思えた。
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