久しぶりの江戸川乱歩のレトロな魅惑の浸った2022年05月12日

『江戸川乱歩短篇集』(千葉俊二・編/岩波文庫)
 今週末、『お勢、断行』という芝居を観る予定である。「お勢」とは江戸川乱歩の短篇『お勢登場』に出てくる悪女である。5年前に芝居『お勢登場』が上演され、今回の芝居はその続編的な内容のようだ(乱歩は続編を書いてない)。

 私は芝居『お勢登場』は観ていないが、昨年、満島ひかりのテレビドラマ『お勢登場』を観たので話の内容は知っている。原作の小説を読んだか否かは、よくわからない。書架の乱歩本を調べたが、この短篇を収録した本はない。

 観劇の前に元ネタ小説を読んでおこうと思い、この短篇が収録されている文庫本を探索し、購入して読んだ。

 『江戸川乱歩短篇集』(千葉俊二・編/岩波文庫)

 江戸川乱歩が岩波文庫になっていて、少し驚いた。考えてみれば、乱歩はいまや古典なのだ。この文庫本に収録されているのは次の12篇だ。

 「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」「白昼夢」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「火星の運河」「お勢登場」「鏡地獄」「木馬は廻る」「押絵と旅する男」「目羅博士の不思議な犯罪」

 これは発表順で、デビュー作(二銭銅貨)の大正12年から昭和6年にかけての作品である。久々に乱歩の蠱惑的世界を堪能した。私が小学生の頃、乱歩は電灯を消した書斎で蝋燭1本で怖い話を書いていると聞いた記憶がある。子供向けの乱歩を読んでいた頃から、乱歩は妖しい魅力をたたえた作家だった。十代後半になって乱歩の大人向けの小説をかなり読んだ。

 今回読んだ12篇のうち、内容を鮮明に憶えているのが数篇、タイトルは憶えているが内容を失念しているのが数篇、それ以外は初読か再読か判然としない。

 いま、これらの作品を読むと、推理や怪奇の面白さ以上に、作品のレトロで甘美な雰囲気に魅力を感じる。大正モダンと舶来知識のペダントリーが織りなす異世界的な頽廃の香りに満ちた短篇集である。

 編者の千葉俊二氏(早稲田大学教授)による巻末解説「乱歩登場」は、近代文学という視野のなかで乱歩を位置づけ、文学研究の変遷を通して乱歩を論じている。大学の講義の雰囲気もあって面白い。

 この短篇集は初出の雑誌掲載時の著者の付記も載せている。言い訳めいたコメントが多くて面白いが、『お勢登場』の付記は次のように結んでいる。

 「もし作者の気持が許すならば、この物語を一つの序曲として、他日明智小五郎対木村お勢の、世にも奇怪なり争闘譚を、諸君にお目にかけることが出来るかもしれないことを申し加えておきましょうか。」

 残念ながらその争闘譚が書かれることはなかった。

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