ポンペイの落書きは生々しくて面白い2022年03月05日

『古代ポンペイの日常生活』(本村凌二/講談社学術文庫)
 東博で4月3日までポンペイ展をやっている。行くつもりだが日程は決めてない。その前に読まねばと、次の本をひもといた。

 『古代ポンペイの日常生活』(本村凌二/講談社学術文庫)

 ポンペイ遺跡に残された「落書き」紹介の書である。古今東西いろいろな場所に落書きがあっただろうが、その多くは時の流れとともに風化して消えていく。ポンペイは古代社会の落書きがそのまま残っている点でも稀有な遺跡である。

 本書は多様な落書きを紹介・考察している。古代都市に生活していた人々の息吹が生々しく伝わってきて、実に面白い。

 落書きと言っても、専門の職人が書いた選挙ポスターのようなものから、居酒屋や娼家の壁に残る片言隻句までいろいろある。品のない悪罵もあれば、書き手の教養を感じさせるものもある。社会史を研究する歴史家にとっては宝の山だと納得できる。だれが何のために書いたかを推測するのはスリリングである。

 本書の終章では「落書きのなかの読み書き能力」を考察し、エピローグでは「人類史のなかの識字率」を論じている。古代ローマの一般庶民の読み書き能力は、さほど高くはなかったかもしれないが、落書きでコミュニケーションできるレベルにあったようだ。

 著者は、少ない文字で読み書きができるアルファベットの普及は、民衆が「自分を見つめる心」を見出すきっかけになったと示唆している。それは著者の『多神教と一神教』『ローマ人の愛と性』の論考につながっている。なるほどと感心した。

 興味深い内容だったが、上野のポンペイ展とはあまり重ならないかもしれない。チラシを見る限りでは、邸宅の壁画や遺物が中心で「落書き」の展示はなさそうだ。

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