ハムレットは一筋縄では解釈できない人物2022年03月14日

『謎解き『ハムレット』:名作のあかし』(河合祥一郎/ちくま学芸文庫)
 先日、世田谷パブリックシアターで観た野村萬斎演出の『戯曲リーディング『ハムレット』より』の台本は河合祥一郎訳だった。上演後の野村萬斎のトークで河合祥一郎への言及があり、この人への関心がわいて次の本を読んだ。

 『謎解き『ハムレット』:名作のあかし』(河合祥一郎/ちくま学芸文庫)

 この文庫本の解説は野村萬斎で、それを読んで『ハムレット』を巡る河合祥一郎との関係がよくわかった。2003年に野村萬斎がハムレットを演じた際(演出はジョナサン・ケント)、野村萬斎が河合祥一郎に新訳を依頼したそうだ。その理由のひとつが本書(原版)の新たなハムレット解釈に惹かれたからである。

 2016年に書かれたこの「解説」で、野村萬斎は次のように述べている。

 「いつか、同じ河合氏の訳で再度『ハムレット』をとりあげ、今度は私自身が演出を手掛けてみたいと思っている。」

 この文章に続いて演出構想の一端を語っている。それは先日の「戯曲リーディング」に反映されていた。6年来の構想が日の目を見つつあるのだと知った。遠くない将来の本番上演への期待が高まった。

 閑話休題。本書は思った以上に専門的で難解だった。ハムレットが書かれたのは1600年頃で、かなり昔である。冒頭の2章では、これまでにハムレットがどのように受容されてきたかを解説している。この部分はわかりやすくて非常に面白い。フロイトやユゴーをはじめ多くの人々のハムレット解釈を取り上げていて、志賀直哉や太宰治の作品にも言及している。

 多様な解釈が生まれるのが古典の由縁であり、著者はそれらに一定の評価を与えたうえで、作品が書かれた時代の「ハムレットの原像」に迫り、それを提示する。そのハムレット像は、確かに私が抱いているイメージとはかなり異なる。著者の論旨を十分に咀嚼できたわけではないが、古典解釈のスリルが伝わってくる。ハムレットはやはり興味深い人物のようだ。

 遠くない将来、野村萬斎演出の『ハムレット』を観る機会が得られた際には、本書を再読して観劇に臨みたい。