朝日新聞社が戦前に刊行した『マインカンプ』を入手したが…2021年09月29日

『要約マインカンプ』(ヒットラー/奥野七郎/朝日新聞社/1941.11.25)
 私がヒトラーの 『わが闘争』全訳版を読んだのは7年前である。その頃、ネット検索していて、朝日新聞社発行『要約マインカンプ』という本の表紙画像を見つけた。どんな本か興味がわき「日本の古本屋」で検索したが在庫がなく、「探求本」に登録した。それから何年も経ち、忘れた頃に在庫ありのメールが届き、早速注文して入手した。

 『要約マインカンプ』(ヒットラー/奥野七郎/朝日新聞社/1941.11.25)

 驚いたことに封書で届いたのは本文47ページの薄い冊子だった。書籍というよりパンフレットだ。確かに表紙には「要約」とあり「抄訳」ではない。

 戦前に日本で何種類かの『わが闘争』が出版されている。私は中学生の頃に祖父の家の本棚から失敬した1940年刊の『我が闘争』(室伏高信訳/第一書房)を拾い読みした。それは346ページの抄訳版だった。朝日新聞社版もそれに似た本だと想像し、『わが闘争』をどう抄訳しているかに関心があったが、届いた冊子は想像した本とはかなり違っていた。

 この47ページの冊子は『わが闘争』を紹介・解説した「早わかり」本で、刊行時期は三国同盟締結から1年後、真珠湾攻撃の2週間前である。新聞社の刊行物としては時宜を得た解説書だったのだろう。

 この冊子の解説で興味深いのは、ヒトラーの民族論は君主も国家も民族に隷属する民族至上主義だと解説したうえで、「天皇があつて國家があり、民族がある我國に於ては許されぬ議論である」と注意を喚起している点である。

 また、『わが闘争』の世評紹介も面白い。「英米系の國では、勿論同書を褒める者は少い」としたうえで次のような評を紹介している。

 《一、マイン・カンプは智性と狂熱、政治家の冷静と詩人の空想のコクテールのやうなものである。奇怪ではあるが無視することの出來ない勝れた書でもある。但し、事實に應々誤がある。》

 《一、ヒットラーの宣傳に對する考へ方は異常なものである。民衆は愚かな羊の群なりとし、輿論は勝手に作れるものだといふ。又、宣傳は手段を選ばず、目的を達しさへすればいいので、事實か然らざるかは問題でないといふ。宣傳一つで、天國と地獄を逆にする事が出來るのだといふ。これを公然と書くところにヒットラーのヒットラーたるところがある。》

 戦前の日本の読者は、これを読んでどう感じたのだろうか。