風間杜夫の『 帰ってきたカラオケマン』にわが世代を感じた2021年09月14日

 東京芸術劇場シアターウエストで『風間杜夫ひとり芝居 帰ってきたカラオケマン』(作・演出:水谷龍二)を観た。風間杜夫は、こんなひとり芝居を24年前から続けているそうだ。私は今回初めて観た。

 数カ月前、新宿花園神社境内でテント芝居『ベンガルの虎』(作:唐十郎、演出:金守珍)を観た。風間杜夫が72歳にして初めてテント芝居に挑んだ舞台である。その好演もさりながら、芝居の途中で突如マイクを手にして朗々と歌謡を披露するシーンに魅了された。そんなことから、『帰ってきたカラオケマン』と題するこのひとり芝居を観たくなった。

 この芝居、牛山明というサラリーマン(接待要員の営業職)が主人公のシリーズものである。冒頭で過去5回の内容を簡潔に圧縮した映像が流れ、主人公のあらましがつかめる。それに引き続いて牛山明(風間杜夫)が登場し、「スナック津軽」という看板のある店の場面からひとり芝居が始まる。

 物語の進行に従って場面は転換し、衣装もかわる。もちろん、カラオケが流れる歌謡シーンが随所にある。かなりの曲数で、タイトルを思い出せない曲も多いが『インターナショナル』『からたち日記(島倉千代子)』『さとうきび畑(森山良子)』『俵星玄蕃(三波春夫)』『よろしく哀愁(郷ひろみ)』などが記憶に残っている。

 牛山明は風間杜夫と同じ72歳、私も同い年である。いろいろあって、妻と離婚して青森のスナックで働いていた主人公は、ママが高齢(95歳)で店を閉めたため、東京に戻り、シルバー人材センターへ行く。昔なじみの喫茶店で別れた妻の相談に乗ったり、元部下の実家が経営する老人ホームで訪問歌謡ショーをやったり、東村山市の市議補欠選に立候補して選挙違反をしたり……と、コント風の情景を積み重ねていくように物語が進行していく。風間杜夫の芸を堪能した。

 主人公には団塊世代を通り抜けて行った戦後日本のさまざまなシーンが堆積している。その残滓が歌謡曲によって白昼夢のようによみがえる。私には、そんな風に見える舞台だった。