13世紀の世界連邦を描出した『クビライの挑戦』2019年02月12日

『クビライの挑戦:モンゴルによる世界史の大転回』(杉山正明/講談社学術文庫)
 出口治明氏の『全世界史(上)(下)』(新潮文庫))をきっかけに読んだ次の本が面白かった。

 『クビライの挑戦:モンゴルによる世界史の大転回』(杉山正明/講談社学術文庫)
 
 『全世界史』の巻末には500点以上の参考文献が載っていて、たとえばその1点が「『世界の名著』中央公論社 全81巻」だったりするから冊数は膨大だ。中でも異様なのが「塩野七生 全著作」「杉山正明 全著作」である。存命の人の全著作を参考文献に挙げるのはよほどの贔屓だ。

 塩野七生氏の著作(歴史小説)は何点か読んでいるので、出口氏の思いはわかる。杉山正明氏の著作を読んだことがなく、にわかにこの著者が気がかりになった。全著作は無理でも1冊ぐらいは読んでみようと思った。

 杉山正明氏は1952年生まれ(私より4歳若い)の歴史学者で『クビライの挑戦:モンゴルによる世界史の大転回』は1995年の著作(そのときのサブタイトルは「モンゴル海上帝国への道」)を2010年に文庫化したものだ。

 出口治明氏の『全世界史』で目から鱗だったのは、モンゴルやイスラム諸国が世界史のなかで果たした業績を大きく評価していることだった。私にとってはモヤの中のようだったモンゴルやイスラムにイメージがくっきりしてきた。

 『クビライの挑戦』は、「モンゴル帝国」の実態は漢民族の怨念や西欧の無知によって歪められてきたとし、その再評価と世界史の中での正当な位置づけを迫っている。著者の気迫が伝わってくる本である。

 ユーラシア大陸の大半を統治していた13世紀の「モンゴル帝国」は実は人種や宗教に寛容で、重商主義と自由経済に重点をおく通商帝国だったそうだ。さまざまな人種・言語・文化・宗教がほとんど国家から規制をうけずに併存・共生する平和で文化的な世界は、近代的とも言える「世界連邦」だったのである。

 南宋を併合したモンゴルは海洋航路を開発し海上国家になりつつあった。「モンゴル帝国」が順調に発展していれば「大航海時代」は西欧ではなくアジアを起点に展開されていった可能性もあったのだ。出口氏の『全世界史』によれば「大航海時代」以前の明の鄭和の航海こそが「大航海」であり、西欧のそれは「小航海」と呼ぶ方がふさわしいそうだ。鄭和の大航海はモンゴル海上帝国の遺産をベースにしている。

 そんなモンゴルによる「世界連邦」がなぜ挫折し未完に終わったのか。本書ではその点についても解説している。だが、私にとっては十分に納得できるものではなく、やはり謎である。