アッシリア帝国はその後の帝国の原型2025年03月13日

『アッシリア全史:都市国家から世界帝国までの1400年』(小林登志子/中公新書)
 2カ月前(2025年1月)に出た次の新書を読んだ。

 『アッシリア全史:都市国家から世界帝国までの1400年』(小林登志子/中公新書)

 同じ著者の『古代メソポタミア全史』を読んだばかりで、1年前には『古代オリエント全史』を読んだ。ゴチャゴチャした複雑な歴史だから、読んでも内容の大半は頭に残っていない。同じ著者の似た内容の本を続けて読めば、多少なりとも記憶に留まる部分があるだろうと思ってこの新刊を読んだ。

 オリエント > メソポタミア > アッシリアという関係だから、徐々に詳しくなってくる。実は、昨年末に『沈黙する神々の帝国:アッシリアとペルシア』(本村凌二)も読んでいる。アッシリアについては、この辺で十分という気がする。ただ、アッシリアという言葉には紀元前の古代史の象徴を感じる。

 アッシリアには「最古の帝国」「強圧の帝国」のイメージがある。文明発祥の地とされるメソポタミアには、アッシリア以前にアッカド王国、ウル第三王朝という領域国家があったが、帝国と呼ばれるのは、メソポタミア全体とエジプトを支配したアッシリが最初だ。

 と言っても、いきなり帝国が誕生したわけではない。それ以前の都市国家、領域国家の時代を含めて1400年の歴史がある。帝国となった新アッシリア時代は前1000年頃から前609年までの約400年である。帝国末期の30年については記録が残ってなく、どのように滅亡したかは不明確だそうだ。『旧約聖書』には、神を恐れぬ行動ゆえに滅ぼされたとあるらしい。

 本書はアッシリア帝国の構成について、かなり詳しく記述している。国家中枢の官僚組織、州行政、属国統治、交通・通信網などが整備されていたそうだ。まさに帝国の原型が出来上がっていたのだと感心した。その後に興亡する数多の帝国(アケメネス朝、ローマ、漢、ビザンツ等々)の統治形態はアッシリア帝国をなぞっただけに思えてくる。人間の集団が拡大していく様は、遠い古代からさほど変わっていないのかもしれない。

 本書には数多くの人名が出てくる。そのなかで、高校世界史にも登場するアッシリア王はアッシュル・バニパルとサルゴン2世ぐらいだ。

 アッシリア帝国全盛期の王アッシュル・バニパルに関する本書の記述は興味深い。読み書きができる「学者王」であることを自慢している。粘土板文書を収集した図書館も作っている。戦争の命令は下すが親征はしない。戦場が怖かったらしい。強圧の帝国の王らしからぬ人である。

 高校世界史に登場する最古の個人名は、アッカド王国のサルゴン王だそうだ。アッシリア帝国のサルゴン2世は、アッカド王国に同名の王がいたから2世だと思っていたが、私の勘違いだった。考えてみれば、違う王朝なのに2世はあり得ない。本書のアッシリア王名一覧には古アッシリア時代にサルゴン1世が載っていた。ちなみに、サルゴンは「真の王」という意味で、簒奪王が名乗ることが多いらしい。